工業都市の再生

要旨

多くの先進国で、空洞化・老朽化した工業都市を再生する必要性が 高まっている。本論文では、工業都市の再生の典型的な事例に関する考察を行い、そ の結果、工業都市再生の戦略には、1)「緑・環境都市」、2)「アート都市」、 3)「研究所都市」、の3つの大きなアプローチがあることを、日本の太平洋ベルト 地帯における工業都市の典型であった北九州と川崎、大陸ヨーロッパの工業中心で あったルール地域のデュイスブルグとスペインのビルバオ、英国の工業中心であっ たミッドランドのサルフォードの経験などから抽出した。まず第1に「緑・環境都 市」戦略の有効性は、i)工業都市のイメージを劇的に転換するために、緑のもたら す効用が大きいこと、ii)工業都市の負の遺産を克服するために技術の開発や改良に よって、エコタウンのためのリサイクル技術が育っている都市が多い点などにある。 ビルバオとサルフォードは環境の再生によって、そしてドイツのデュイスブルグは 緑と産業遺産の活用、市民の力によって再生した。北九州市は大量生産型社会から の脱皮を環境産業に求め、エコタウン事業による循環型社会実現から都市の再生を 図った。第2に「アート都市」戦略の意義は、アートは誰にも身近なものであり、 心を豊かにするものであることから、衰退した地域で一番重要な若者を元気付け、 新しい産業を芽吹かせ、やはり地域のイメージを改善する効果にある。ビルバオも サルフォードも門司港レトロも、文化と建築とコミュニティの力で都市の再生を 図った。その際、教育力も重要な意味をもっている。第3に「研究所都市」の意義 は、現在の産業の高度化にある。現在の工場は高度化しているため、工場都市とは、 すなわち研究所都市と言い換えることが可能である。研究開発機能に重心を移し、 より高度な都市を目指すことが重要である。これが川崎市のとった戦略であり、 200をこえる研究所を都市経済のベースとして再生を成功させた。

Title:Urban Regeneration Strategies of Old Industrial Cities

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