所有権と利用権の多様な形態にもとづく都市再生戦略 ―東京と地方における都市再生の比較の観点から―

要旨

国際的には、土地への愛着心よりも、土地を共同で利用することによる高収益を得ること が、自らがその土地を所有する権利よりも重視される。土地は活用され、利益を生むべきも のという原則があることは、アメリカなどの例をみても明らかである。 ところが、諸外国に比べ、土地所有権の意識の強い日本においては、都市中心部のように、 ブロックで土地集約をし、高度な経済的価値を生み出すべきところにおいてすら、都市開発 に多大の困難が存在する。また、都心開発においては、戦後一貫して経済成長の恩恵にあず かってきた東京と他都市では、条件が違うことも事実である。 しかしながら、それでも都心開発で成功する例は存在する。そこで本研究では、そのよう な事例を調べるととともに、そのプロセスの中で、地権者・事業者とも、どのようなメリッ ト・デメリットを認識し、事業を進めていったかを、詳細に分析し、そこから得られる土地 所有権と土地利用権の分離原則をパターン化して、最終的に、東京以外の地方都市も含めて 都市開発で利用可能な手法として「二重信託方式」を提案するものである。 事例としては、「買収」については大阪市北区の中之島三丁目開発、「等価交換・区分所有」 については、東京のアークヒルズ、「等価交換・区分所有」と「民事信託」の組み合わせにつ いては、東京の六本木ヒルズとジェイシティ東京、「定期借地」と「民事信託」の組み合わせ については、高松市の丸亀町地区A街区の例を分析する。このような事例分析から抽出され た知見をまとめたマトリックスから以下のようなメリット・デメリットが導き出される。 1)そもそも日本では、戦後、「買収」のみがまず土地集約の基本的手段であった。「買収」 は、デベロッパーにとっては土地取得額が高額になり、期間が非常に長くなる、地権者は追 い出され、事業参加ができないなどの基本的な大きな問題がある。 2)そこで、「土地から建物への所有権を交換する」という原則にもとづく「区分所有法」 が利用されるようになった。しかし、デベロッパーにとっては、共同事業者の危険性、譲歩 が求められる、将来の補修問題・意思統一が難しい、地権者にとっては、リスクが大きい、 収入不安定など非常に多くの問題を抱えていることがわかる。現在は、区分所有は多くの問 題を抱えている方法とみなされる。 3)これに対し、「民事信託」は、デベロッパーにとっては、倒産隔離、意志凍結能力、地 権者にとっては、事業参加、安定収入など多くの点で優れている。 4)また、「定期借地」は、倒産隔離はない、デベロッパーにとって劣後地代の問題がある、 地権者にとって、リスクがない、安定した収入がある、事業参加はできる、「土地価格の顕著 化」が表れることはないなどの特徴をもつと分析できる。 結論としては、「信託」を用いた土地集約手法は、「買収」・「等価交換」・「定期借地」によ る土地集約の何れと比べても優位に立つ土地集約方法であることは明らかであり、特に六本 木ヒルズ以後の再開発には、信託の持つ倒産隔離、意思凍結能力を活用した多様な信託手法 が利用されていると結論できる。 そこで、さらに、地方都市において実践される小規模な再開発事業にも対応できる手法と して、「土地を受託財産とする信託と建物を受託財産とする2つの信託とその間を取り持つ定 期借地契約を併用することによる再開発スキーム(「二重信託方式」)」を考案した。これは、 ①事業主は、信託された敷地に、事業主を賃借人とする定期借地契約を締結し、建物を建設 する。②竣工した建物は信託され、事業主による適切な賃貸運営により収益を確保し、また、 不動産の証券化スキームを用い金融機関から建設費の調達や受益権分譲を行う。③地権者は、 信託会社から事業に伴う全ての必要経費を支払った残余財産をもって、地代に代わる信託報 酬を受取る。というものである。この新しいスキームにより、地方都市においても、土地価 格を顕著化させ多額のイニシャルコストと長い年月を必要とする用地買収を行わないで、信 託による土地集約により敷地を確保できると予想される。
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