学術研究都市における「エコシティ」コンセプトと市民参加の可能性-関西学研都市の事例-

要旨

(1)経済社会が、工場など製造業によるモノ作りから、知識や文明を生み出すことを狙ったポスト産業社会へと転換するに従い、まちづくりのテーマも、大学・研究機関・研究所を中心とする「学術研究都市」が重要となってきた。学術研究都市は、1960年代中ごろのアメリカのサイエンスパークを嚆矢とし、わが国では、1983年の「テクノポリス法」によるテクノポリスも全国で数多く指定されたが、それは半導体関連の工場誘致が多かった。そこで別格の日本の4つの代表的学術研究都市(「関西文化学術研究都市(以下関西学研都市という)」、「筑波研究学園都市」、「神戸研究学園都市」、「北九州学術研究都市」)の比較検討をおこなった。1)推進体制からみると、「筑波研究学園都市」と「神戸研究学園都市」が行政直轄型、「関西学研都市」や「北九州学術研究都市」は推進機構型であり、前者の方が都市整備は早かった。2)しかし逆にエコ関連からみると北九州学術研究都市と関西学研都市の2者が進んでいる。そこで関西学研都市について中心的な研究をおこなった。 (2)ファースト・ステージには、三府県にまたがる丘陵に位置する12地区を「クラスター型開発」する研究施設、大学施設、文化施設等が立地する理想を描いた。セカンド・ステージはバブルの崩壊とともに停滞したが、サード・ステージには、2006年に近鉄「けいはんな線」が開通するとともに、これまでおこなわれてきた新産業・新技術への取り組みが徐々に評価されるようになってきた。「サード・ステージ・プラン」は「持続可能社会」の推進に向けて、「環境・エネルギー」研究分野に積極的に取り組むことで、「エコを"文化"にする!」と宣言している。このように従来のIT系だけでなく環境・エネルギー・農・健康医療などの一級の技術や産業への取り組みが存在している都市として評価が高く、「けいはんな環境・エネルギー研究会」などの活動からは「けいはんなエコシティ推進プラン」が生まれ、国の「EV・PHVタウン」都市として選定された。さらに「次世代エネルギー・社会システム実証地域」については、関西では関西学研都市のみが選ばれ、「総合戦略特区」にも指定された。サード・ステージでは、「純粋な研究所だけでは都市建設が進まない」(羽原2007)との見解を示し、新産業創出に向けた試作生産機能を有する研究開発型産業施設や研究成果を活かした生産施設等についても、立地促進を図ることとした。「新産業創出交流センター」、「けいはんなプラザ」の「ベンチャー・中小企業育成制度」「けいはんなラボラトリーコミュニティ」「川上・川下ネットワーク構築事業」を行なってきた。 (3)関西学研都市はそもそも発祥の「ファースト・ステージ」から「地球規模での環境問題」を課題としていた。「サード・ステージ」では「環境・エネルギー・農」などを中心的課題として再生を図ろうとしている。これらは21世紀の人類文明の中心テーマである。特に環境やエネルギー問題は住宅や自家用車などのライフスタイルに関わる技術であり、市民とともに実証しなければならない。環境問題そのものがすぐれて市民参加型のテーマである。学研が本当に「サード・ステージ」に復活するかどうかは、市民参加型の都市となれるかどうかにかかっているといえよう。社会的意識の高い市民が多いのでその可能性はあると考える。 (4)本研究では、独自の環境意識アンケートを、関西学研都市で開かれた「けいはんな環境・エネルギー研究会」セミナーおよび関西学研都市の実際の住宅地で戸別配布で実施した。その結果、ニュータウン地区ではグループA「30代+会社員+居住10年以下」、グループB「30代+主婦+居住10年以下」、グループC「60代+主婦+居住5年以上」、グループD「60代+その他職業+居住21年以上」、そして非ニュータウン地域ではグループE「70代以上+無職・その他+居住21年以上」という5つの代表的人口群が表れた。これらは、3つの「住民像」にまとめられる。①「旧住民・シニア」、②「新住民・シニア・エコ派(シニア・主婦)」、③「新住民・30代・教育派(会社員・主婦)」。この結果、興味深いことに、ニュータウン地区の『新住民』のかなり居住年数が長いシニア世代で潜在的にエコ知識・エコ活動・市民参加に意識の高い"エコ・センシティブ"な人々(新住民・シニア・エコ派)がかなり存在感をもっていることが分かった。今後は、こうしたシニア世代に働きかけ、キーパーソンとなってもらうことが、「住民参加」によるエコシティへ作りにおけるヒントになると思われる。最後に、一般の都市を「二元論都市」とした場合、学術研究都市のモデルとして「三元論都市」モデルを提起した。
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