要旨
2000 年に施行された地方分権一括法に基づく第一次分権改革では、機関委任事務の廃止等に
より、国と地方において対等な協力関係が制度上の原則とされた。さらにこれは地方自治体
相互の関係においても同様のものとされ、都道府県と市町村においても対等協力の関係が原
則となった。しかし、現在に至ってもなお、都道府県に対して市町村が従来有していた上下・
主従の関係を意識する面がある。本稿においては、近江八幡市が固定資産税の課税に関して
滋賀県に問い合わせを行った結果、誤徴収となり、市に損害が発生したとして訴えを提起し
た事案を例として、都道府県に対して市町村が有する意識について考察した。本件事案にお
いては、地方自治法上における自治体間の紛争処理スキームは採用できないとみられる。さ
らに、本件事案における県の回答は行政指導に当たらず、技術的助言に該当するとも考えら
れにくい。なお、県の回答は国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」といえると考えら
れる。しかし裁判例の大勢からみて裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたらない
として訴え却下となる可能性がある。「公権力の行使」にあたらないとすれば、国家賠償法1
条1項の適用を受け、そうでないならば、民法上の不法行為規定の適用を受けることになる
が、この場合であっても、「法律上の争訟」にあたらないとして訴え却下になる可能性がある。
訴え提起に際して、市は「県の技術的助言による誤徴収で損害が生じた」との主張を行って
いるようであるが、これは対等協力関係という制度上の原則にそぐわないものである。この
主張から直ちに一般化することは難しいながらも、本件事案は、市町村が都道府県に対して
今なお有する上下・主従の意識を示す一例として位置付けられる。