集客戦略による地域再生と地域ブランド -新世界・天王寺動物園エリアを事例として-

要旨

都市衰退と財政難の続く先進国では、ハード中心の都市開発からソフトな都市再生手法の開発が急務となっている。「新世界・動物園前エリア」は長らく衰退していたが、近年、活性化しつつある。本研究は、この地域の再生のための集客を調査・分析し、地域マーケティング・地域ブランドの確立についての手法として検証し、その成功メカニズムの独自のモデル化を試みる。過去、新世界のイメージが低下した最大の要因は、西成暴動が、マスコミの報道等で、周辺地域とくに通天閣をランドマークとして情報伝達されたことである。西成区での暴動は大規模なものは1973年を最後に事実上収束したが、それにもかかわらず、暴動収束以降も、長らく地域のイメージを強く規定してきた。開発が遅れた為に大型商業施設が無く、逆にディープで大阪らしさが残る街として現在ブランド化に成功しつつあり、人気となってきている。活性化の理由は、㈰TVドラマ等での庶民的に愛される街のイメージ形成に成功したこと、㈪串かつ飲食店の出店戦略により「パチンコの街」から「串かつの街」への転換が成功したこと、㈫通天閣自身の経営の成功などによる集客力のアップなどに求められる。新世界は、「演芸映画の街→パチンコの街→串かつの街」という進化をとげてきた「都市再生」のモデルともいえる地域である。新世界の中に存在する約45店舗もの串かつ店の集客戦略において2005年からの串かつ振興会などの貢献がある。マーケティングミックスの4Pの1つ、Place「流通チャネル戦略」の中の、ある地域に集中的に出店し圧倒する『ドミナント戦略』とみなせるが、別々のコンセプトに則った別々の店舗をデザイン豊かに構築する戦略をとっておりこれを「個性型・ドミナント政策」と名付けた。個々の店が差別化を計り、コモディディ化を回避する「ファッションブランド街」と同様の戦略をとって成功しているものといえる。天王寺動物園については、一旦集客が落ち込んだが専門家のアドバイスにより「無柵放養式」から「生態展示」に進化し、1995年に入館者が増加し再生した。【1】新世界でおこなったアンケート調査について分析すると、「暴動を知らない(イノセンス比)」比率が高いのは「地元関西の若い顧客」+「他地方からの顧客」である(イノセントグループ)。【2】来訪者カテゴリの第1位〜第6位で全体の73%の来訪者の大多数(4人に3人)をしめ、これは「他地方からの若い世代」「地元の若い世代」「地元の50代」の6つのタイプである。【3】このうち「地元の50代」を除く来訪者主力の5グループが、すべて「暴動を知らない(イノセンス比)」比率が高いイノセントグループ(「地元関西の若い顧客」+「他地方からの顧客」)でこれが来訪者の3分の2以上の大勢を占めていることがわかった。よって過去を知らない世代や他地方の人々に希求した事が多くの集客につながっていると考えられる。地域マーケティングの観点から新世界をみると4Pにかなり成功しつつある。そしてポジショニングは、広域のテーマパーク的であり、むしろ、過去にとらわれない人が「再発見」した形の地域再生であり、それゆえ顧客圏はむしろ広域である。まるで1つのテーマパークのようなエリアとしてのマーケティングに成功しだしていると言える。また、キタとミナミのポジショニングでは、差別化された財として「キタ」より「ミナミ」の方が差別化の度合いが強いと考えられることを指摘した。ターゲットとしては「古いイメージを払拭するきっかけとなるリーダー的顧客層」にアピールできたから成功したといえる。㈰時間(世代的)回避=過去を知らない若い世代が人気のきっかけに、㈪空間的回避=他地方・海外の客が人気のきっかけに、の2つの方向である。アンケート結果からも実証されたセグメントの再定義として、(1)無意識的な成功、(2)若い世代へのアピール、(3)また、もともと広域に有名で他地方の客も来やすかったことから「STP戦略」が偶然成功していることを指摘した。こうしたことから「イノセント・ターゲティング」モデル=都市再生が必要な衰退地域の活性化において、過去のイメージを回避するために過去を知らない(イノセントな)新規顧客(=新世界の場合、若い世代や他地方の顧客に相当)という新しいセグメントに希求するターゲット手法であることがわかった。また新世界ブランドの特殊性として、(B)ブランドの顧客信頼関係条件はあるが、(A)ブランドの価格面条件について通常のブランドと異なるいわば「低価格型ブランド」といると思われる。近年でてきているいわゆる「B級グルメ」もこの例になる。今後の展望として最終的には、新世界は、1)日本橋→難波 方面、2)動物園→天王寺・阿倍野 方面、と連携することにより、「グレーターミナミ」として再生が完成することを指摘した(ミナミ・ゴールデンルート構想)。

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