地域活性化のためのファッション雑貨産業における 独自ブランドの構築とデザイン開発

要旨

これまで日本のファッション業界は、デザインやブランド構築ではヨーロッパに頼り、素材を供給する分業の地位に安住してきた。そしてデザイナーを育ててこなかった。しかし素材製造でアジアが追い上げると日本は挟み撃ちにあい、居場所がなくなる(中二階の恐怖)。なんとかデザインの覇権を確立し、ブランド化(二階にあがる)高付加価値化しなければ生き残ることはできない。そこで日本のファッション産業界で独自ブランド化・デザイン開発・人材育成に挑戦し、一定の成果をあげている事例から成功モデルを抽出する。日本の手袋の9割を生産する東かがわ市のヨークスは、ヨーロッパにデザインを学び、優れたデザインをヨーロッパに供給することに成功している。この【手袋モデル】は、(1)ヨーロッパにデザインを学び、市場を開拓、(2)もともと手袋は、主戦場であるアパレルとちがい、アパレル小物(副次的装飾品)、(3)しかも触覚の中心である「手」に直接触れる品であることから、日本の得意とする手触りの仕上がり具合、精密な加工が必要とされ、「強み」が活かされる、(4)縫製段階が多く、これも日本の強みである、(5)さらに素材の強みもある、などの要素がある。また、豊岡事例から、【グローバル競争激化による産地独立化モデル】産地メーカーがさらに自立化のため、《独自ブランド》というもう一つのチャンネルができ、「豊岡鞄ブランド」では、新しい小売販路(百貨店、大手量販店)の開拓となった。独自ブランド立ち上げの積極的意味として、(1)OEMからの脱却、(2)直接小売にする発想:自分達の作りたいモノを直に小売に販売しようとすること、が出てきた。また、神戸ファッション協会は、セレクトショップと組み、産地のデザイン化を応援する。この【セレクトショップモデル】では、(1)産地は協会が、クリエイター・スタイリストはセレクトショップが窓口となりコラボを実現、(2)産地は「機能性」、東京のデザイナーは「知名度」が「強み」、(3)「外部環境的強み(機会)」は、やはり、主戦場のアパレルとちがい下着・靴下、アパレル小物、バッグ・カバン(登山)の機能的製品である、(4)産地には素材の強みもある、(5)デザイナーの獲得がカギ、などの要素がある。しかし【セレクトショップモデル】では他都市のデザイナーに頼っている。そこで、地域でデザイナーを育てられないかという【人材育成戦略】が重要である。これについては、(1)兵庫県豊岡市 鞄産地のデザインとブランド戦略、(2)神戸ファッション協会「人材育成」の様々な取り組み、(3)たつの市の皮革産地の例で研究した。さらに本研究では、日本のファッション産業のジャンルごとに、【機能性×ブランド性】でポジショニング分析した。するとデザイン開発で成功する事例が多い「アパレル小物」と「バッグ・カバン」はすべて左上第2象限に位置する。これは、機能性「強」×ブランド性「弱」でブランド開発されていないところにあたり、日本製品で次にデザイン開発し有望と思われる目をつけるべきジャンルと考えることができる。

既往の研究が明かにしているように、地方の第一次産業や伝統産業の活性化には消費者へダイレクトにつながる川下戦略が重要であるが、本研究ではさらに、①グローバル競争激化の中で産地の製造と卸が複雑に独立化しつつあるより精密化したモデル、 ②日本のファッション産業のポジショニング分析によって明かになった「アパレル小物」と「バッグ・カバン」の有望性(日本製品で次にデザイン開発し有望と思われる目をつけるべきジャンル)、 ③産地自立におけるデザイン価値の重要性、 ④新たなデザイン価値の問屋(マッチング主体)としてのセレクトショップの重要性、⑤人材育成モデルなどを指摘する。

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