回遊型飲食イベント(バルイベント)の 集客メカニズムについて

要旨

近年、中心市街地の衰退問題が深刻である。衰退の原因は、大型店や電子取引との競争や、消費者嗜好に対応できない地域商業の問題、若い人材の不足、など複雑かつ多岐にわたる。こうした衰退に対しての対策はこれまでにも様々考えられてきたが、再生の鍵となるのは最終的には集客力である。しかし全国各地の中心市街地では核となる観光資源の少ない地区が大半で、予算をかけずに既存の地域資源を活用・連携した手法での活性化が求められている。このような中で全国的にブームとなりつつあるバルイベントは「来訪者が約3500円で通常5枚程度のチケットを購入し、対象地区の飲食店を5店舗回ることができる」というシステムで、運営側からみると準備が簡単(既存の地域資源と必要最小限の費用で実現可能)であり、かつ回遊効果が期待でき、リピーター確保に繋がる点などメリットが多いことで注目されている。まちづくりの手法として注目されはじめているが、その有効性にスポットが当てられる中で、意外にもそのメカニズム、特に消費者側の要因についての分析はなされていない。本当の意味で地域活性化に活かすためにはメカニズムを特定することが重要である。そこで本研究ではイベント来訪者へのアンケート調査によりモデル化を試みた。もともとバルイベントは、スペイン文化の再現とまちづくりという要素をもった函館の第1世代から伝播して、スペイン文化にこだわらなくなった第2世代(伊丹、柏など)、さらに地域商業の側面が強くなった第3世代に至っている。データ収集により2012年時点で全国のバルイベントを86件確認した。バルは、1)地域的には関西が1番多く全体の約40%のシェアを占め、これに関東の23%が次いでいる。関西・関東だけで全国の3分の2を占めていることから、発祥は函館ではあっても、大都市圏型のイベントといえる。2)運営主体および性格から3分の1を占める「飲食型」と3分の2を占める「まちづくり型」に分類される。これらをもとに、「まちづくり型」として、函館西部地区の「函館西部地区バル街」、伊丹市中心市街地周辺の「伊丹まちなかバル」、飲食型として、阪神甲子園駅周辺の「甲子園はしごバル」、JR西宮駅周辺の「西宮東口バル」を事例分析した。アンケート調査から、(1)全地区ともに、来訪者イベントの「しきいの低さ」の方を強く感じており「割安感」はそれほどでもないこと、(2)何を評価しているかについては「たくさん飲み食いできる」よりも「新しい発見がある」「知らない店に行ける」という評価のほうが多いこと、量的な側面よりも、回遊の結果得られる「経験」「情報の取得」が評価されていること、(3)「まちづくり型」の伊丹では「店やまちの雰囲気が良い」の回答数が多いことが分かった。本研究では新たな視点として「情報価値」と「経験価値」を導入し、コスト・ベネフィット分析をおこなった。一般の食事に比べても、アルコールを含む飲食の入る「飲みに行く行為」は、1)高い料金をはらって1店の情報しか得られない高いリスクを常に抱える、2)「雰囲気」「社交」を楽しむという要素、「経験経済」的側面がより強い。1日あたりのバルの飲食量からみたコスト・ベネフィットは、「一般的な平日の外食」も「バルイベント」もまったく変わりがない。このように、本研究ではじめて適用した「バルのコスト・ベネフィットモデル」の結論は、一見、意外なように見えるが、これはアンケートでも「単なる割安感」があまりみられなかったことをうまく説明する。つぎに、バルイベントの「情報価値・経験価値」を含む1店舗あたりのコスト・ベネフィットモデルを考えた。すると、①「しきいの低さ感」については、一店舗あたりにかかるコストが下がると、当然店には入りやすくなる(しきいが低くなる)。すなわち、情報価値を考えなくても、バルで「しきいの低さ感」が相当あることが「1店当りのコスト・ベネフィットモデル」で説明できる。②「割安感」については、バルでは「割安感」は変化がないということが、「情報価値を考えない1店当りのコスト・ベネフィットモデル」で説明できる。③しかし、ここに情報価値・経験価値を含むベネフィットを加えると、バルでも「割安感」は若干あるということが、「情報価値を考える1店当りのコスト・ベネフィットモデル」で説明できる。以上から本研究で提案する「情報価値・経験価値を含んだコスト・ベネフィットモデル」により、アンケート結果をうまく説明できることがわかった。消費者側からはバル参加は、通常の飲食と比べて、一晩での支出費用と飲食の効用はそれほど変わらないが、通常の飲食より5倍の店に行くことができ、はるかに大きい新しい情報・経験・人とのふれあいを得ることがメリットとなっていることがわかった。①先行研究では「割安感」「しきい低さ感」が指摘されていたが、本研究の調査では「しきい低さ感」が強く「割安感」は弱かった。②このことは「情報価値・経験価値論を含むコスト・ベネフィットモデル」により説明できる。③また、情報価値・経験価値はまちづくり型ではより高まるがわかった。④以上からバルが集客上有利であることを説明できた。⑤さらに集客効果を高めようとすれば、まちづくり型が有効である可能性を示唆した。

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