高齢者介護の新たな社会化モデル -高齢者介護を通じてできる紐帯「介縁」ネットワーク-

要旨

日本の高齢者介護の歴史は「宗教家・慈善事業家」時代→「救護」時代→「措置」時代をへて、戦後1963年に成立した「老人福祉法」より本格的な「施設化」時代となり、1970年代半ば頃までは「施設」や制度に重点が置かれていたといわれている。しかし、1970年代半ば以降は、住みなれた地域の中での生活を支援するという観点から「在宅福祉」が重要であるとの認識が高まり、介護「家庭化」時代(1970年代後半〜1990年)を迎え、1980年代の「在宅介護サービスの三本柱(デイサービス、ショートステイ、ホームヘルプ)」の整備、1990年代の「ゴールドプラン」と「介護保険法」の成立となった。そして、2000年の「介護保険制度」以降、高齢者介護の「社会化」の時代を迎えたが、この時期の「介護の社会化」というのは、「特別養護老人ホーム(特養)」の供給不足の解消等から、従来は公益法人にしか認められていなかった有料老人ホームへの株式会社の参入の解禁により、介護サービスの担い手を、民間の企業にも任せるといった、高齢者介護の「企業化」の時代に等しいといえる。その後第2次「家庭化」時代(施設総量規制2000年代後半)→「住まい化」時代(「サービス付き高齢者向け住宅2010年代〜)を迎えるが、2012年の「介護保険法」の一部改正以降、新たな「社会化」時代が模索されている。しかしながら上記のような「社会化」が完全に成功しているとはいえず、「社会化」がいかにすればうまく実現するのかが課題となっている。そこで本研究は、これまでの「社会化」があまりにも制度的・施設的側面を重視していたのではないかとの問題意識から、成功事例をふまえ、「社会化」の本来の姿である「社会構造」の観点から新しい「社会化」のモデルを検討するものである。事例を取り上げる前に、高齢者介護サービスの分類論をおこなった。(1)大きく時間・空間分類としてA「訪問型」、B「通所型(デイサービス)」、C「短期入所型(ショートステイ)」、D「施設型」、また、介護様態のプロセス類型から3パターンの移動の構造図として示し、パターン㈰「居宅パターン」、パターン㈪「介護度低め(特定施設)入居パターン」、パターン㈫「介護度高め(介護保険3施設+認知症施設)入居パターン」を発見した。このような観点から3つの高齢者介護施設の成功事例(「地域密着型サービス」)を調査した。【事例1】「板橋の町家ほっこり」は「認知症対応型通所介護(類型B)」「小規模多機能型居宅支援事業所(類型A+B+C)」を併設している。IT環境をいかした情報発信と、施設を地域に開放したことで、新しいネットワークを広げ成功している。【事例2】「松原のぞみの郷」は「小規模多機能型居宅支援事業所(類型A+B+C)」である。参加型機関誌、家族を含めた旅行などの努力で、施設の地域への開放などを通じ、現家族ばかりか元家族(OB・OG)との関係性も強力で、家族・職員・元職員・地域住民・ボランティアなども巻き込んだ広範なネットワークを形成している。【事例3】「ちくりんえん」は「認知症対応型共同生活介護(類型D)」で「くま五郎の家」は「認知症対応型通所介護(類型B)」である。ここは、施設外の活発な取り組みに特徴があり、認知症介護支援について学習の場の創出=市民学習勉強会「認知症介護支援者教室」や、認知症相談窓口として「シルバー110番(24時間体制)」を設置、「シルバー110番」の「研修制度」を設け、研修の修了者は「地域委員」として「S−110の家」を開設し、地域の認知症相談支援窓口となるという学習と支援の連鎖を構築している点が優れている。このように「自主的な個人ボランティア」や「元利用者(OB・OG)の家族」の新しい紐帯の連鎖こそ重要で、「介護の新しい社会化」には欠かすことができないことが分かった。これを「介縁」モデルとした。「介縁」は、「信頼関係」「Win−Win関係」「開放性」などの特徴をそなえたネットワークであるので、「成功するまちづくり型」のソーシャル・キャピタルに類似する。そこでソーシャル・キャピタル論から解釈した。ソーシャル・キャピタル分類論からみると介縁モデルは、以下の複雑な構造をもつ。(1)血縁に立脚した「利用者」=「家族」間のゲマインシャフト的家族関係=古い紐帯のコミュニティ=「結合型(Bo型)」、(2)地縁に立脚した「地域」内のゲマインシャフト的家族関係=古い紐帯のコミュニティ=「結合型(Bo型)」、(3)「利用者+家族」と「施設」とのサービス=料金(保険含む)の授受と解せるゲゼルシャフト的ビジネス関係=近代的紐帯のネットワーク=「橋渡し型(Br型)」、(4)これらの利用者、家族、地域のBo型紐帯と利用者、家族、施設のBr型紐帯を核として、さらに、ボランティア的、アソシエーション的ネットワーク=「橋渡し型(Br型)」が広がる。すなわちその外側に、これらを拡大する「ボランティア」「OB・OG(元家族)」「同業団体」「行政」などとの近代的紐帯のネットワーク=「橋渡し型(Br型)」が広く展開した形である。(5)以上を総合すると、ソーシャル・キャピタル分類論からみると介縁モデルは、Bo型・Br型が複雑にからみあった新しいタイプの「Bo+Br複合型」(=ゲマインシャフト+ゲゼルシャフト+アソシエーション複合体)といえる。これまでの国と利用者だけの介護制度を二重構造とすると、現在、一般的にいわれている「高齢者介護の社会化」とは「介護保険制度」として制度的にサービスを企業・市場に任せたものにとどまり「三重構造=介護の企業化」にすぎない。しかし著者は、現在先進的な活動をし、成功している高齢者介護サービス事業所を調査していると、高齢者介護の取り巻く環境が変化し「介縁」による紐帯から結びつけられた人々を含んだ構造となっていることを発見した。そうしたことから「介縁」からなる「新三重構造」が望ましいのではないかと思われる。「高齢者介護の新たな社会化」とは、「介護」というキーワードとの縁による紐帯「介縁」によって結び付く人々(地域住民、近隣住民、ボランティア、NPO団体、以前介護サービスを利用していた高齢者の家族、その他直接介護と関わりのなかった人など)も含め、介護を通して「介縁」の結びつきを、連続的に創造・形成し、拡大して広がりをみせ、ネットワークを作ることである。
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