地域性ガイドラインにもとづく 景観創出手法によるまちづくり(景観創出型時代町)の可能性 -伊勢、彦根、豊後高田の事例を中心に-

要旨

地域の差別化が重要となり、地域の個性をいかしたまちづくりがさかんになっている。その代表例が歴史的まちづくりである。しかし、保存型まちづくりは、過去の建築物が豊富に残っているところならよいが、かつては古い景観があっても失われているところがほとんどである。このような地域でも記録をたよりに古い景観を復元することは世界的には多いのだが、日本では文化財的に古いものそれ自身が完全に続いていないと評価されないことが多い。じつは、このように一度は伝統的な町並み自身がほとんど失われたが、過去の様式を「ガイドライン」として復元する政策はヨーロッパを中心に多く行われている。日本でも以下のように、いくつか重要な事例で成功例が存在することがわかる。劣化の激しい日本建築ではこのような手法はますます重要になってくるであろう。そこで本研究では、いわゆる「文化財的な完全な保存手法」と「一般的新築手法」の中間にある、第3の手法、すなわち「地域性・伝統を受け継いだ古いまちの創出手法」による地域活性化事例を研究した。すなわち、(条件1)伝統的建造物群保存地区(伝建地区)の特性を持たない町、古い建築がそのまま保存されていない、歴史的景観がすでに崩壊の状況にあるものの、(条件2)古い地域景観の伝統性や地域特性や歴史性が受け継がれているまち、に対して、伝建地区に見られるような凍結保存ではなく、現在の生活を損なう事なく、過去と現代を融合させて「創出型時代町」を新たに再生させた町並み創出によるまちづくりに着目した。創出型時代町の分類をおこない、事例としては、伊勢「おはらい町」(A)、伊勢「おかげ横丁」(B)、彦根「夢京橋キャッスルロード」(C)、豊後高田「昭和の町」(D)の4事例をとりあげた。【1】その結果、創出型時代町成立の条件「組織論と合意形成」を考察し、以下の3つの点が重要であることをみた。1)まず、まちづくりの発意は、事例C以外の成功例のすべて(事例A、B、D)は、住民発意であり、事例Cも都市計画道路計画が契機となっているものの、住民のリーダーシップですすめられることとなり、基本的に住民中心であることが証明された。2)次に、住民組織のリーダーの存在としては、いずれもすぐれた地元の数名のリーダーがいた。行政組織だけでなく、㈰地元商店主・地権者、㈪地域への公的な思いのある事業家、㈫専門家、㈬観光協会や商工会議所の職員、など、民間部門でありながら、公共の心をもったキーパーソンがリーダーとなっている。3)合意形成のためにリーダーはいろいろな努力をしていることがわかった。(A)では、㈰「生活の重視」。㈪もともとハードの継承でなくソフトの継承とは、伊勢遷宮の伝統そのものの考え方「遷宮」にならう。(C)では、約2年間に渡り、㈰「まちなみづくり通信」の発行、㈪視察研修、㈫「本町地区まちなみづくり相談室」の開設など努力をした。(D)では、㈰現地調査、㈪CG設計、㈫4つのコンセプト構築などの努力をした。そして、合意形成した条件としては、(条件1)住民には、「地域への愛情・愛着」やある程度の「信頼関係」があること。(条件2)住民主体の組織をつくる。(条件3)地権者説得は住民自身が中心になる。地権者説得は早急におこなわない。粘り強く時間をかける。(条件4)「信頼のネットワークの醸成」が成功の最大の条件である。(条件5)しかし、「新しい考え方を受け入れる柔軟性」が考えられるが、これは、ソーシャル・キャピタル的な素地があったと解釈できる。【2】つぎに、創出型時代町成立の条件として、ガイドライン(整備基準の方向性)の重要性をみた。景観創出型まちづくりでは、保存型まちづくりと違って、保存されているハードそのものがあるわけではなく、ソフトの理念型としての「地域の伝統的デザイン」のガイドライン・コンセプトをつくる「専門家ないし専門的知識集団」が必要。この専門家が、できるだけ地元住民か、地元の近いところから出てくることが望ましい。、ガイドライン組織論として、景観創出型まちづくりでは、通常のまちづくりにおいて存在する主要なプレイヤーである「地域住民(地権者含む)」と「行政」の2者にくわえて、地域性を考慮したガイドラインを作成する手助けをする「専門家」が、まちづくり第3の主体として大変重要な意味をもってくる。「専門家」も、できるだけ地元出身か地元の意見をきける人が望ましい。ガイドライン構造論としては、㈰ファサードの整備、㈪様式、㈫材料・色彩の観点から統一的に論じた。【3】つぎに、創出型時代町成立の条件として、経済採算条件を論じた。景観創出型まちづくりでは、特に、ハード整備に費用がかかるので、サスティナブルの資金が供給される仕組みが必要である。行政の補助も含めて何らかの形で、住民の負担にならず、「WIN−WIN関係」になる仕組みが必要である。1)伊勢「おはらい町」(A)では(1件あたり)コストは2000万、行政の補助は0、集客は400万人である。2)伊勢「おかげ横丁」(B)では、コストは140億、行政の補助は0、集客は400万人である。3)彦根「夢京橋キャッスルロード」(C)では、(1件あたり)コストは4200万、行政の移転補償+修景補助300万でほぼまかなえる、集客は40万人である。4)豊後高田「昭和の町」(D)では、(1件あたり)コストは235万、行政の補助は155万、集客は40万人である。とくに、㈰伊勢(A)(B)は、商家が多く元々事業収入の高い立地点であったこと、民間事業家の寄付・投資があったこと。㈪彦根(C)は、都市計画道路の拡幅事業による収入があったこと。㈫豊後高田(D)も行政の応援があったこと、が大きい。以上から、景観創出型まちづくりの成功モデルとして、(1)組織・合意形成モデル、(2)ガイドライン構築条件、(3)経済採算性条件を明らかにした。

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