地域振興に資するサスティナブルな着地型観光組織の分類論

要旨

日本が観光国として成長するにあたり必要な戦略として積極的に「外需を取り込む姿勢」、と21世紀に入り、ニューツーリズムの台頭と共に全国各地に「着地型観光」の機運が拡大して地域主体の観光商品が旅行市場に発信されるようになった。「着地型観光を推進する組織」とは、1)広義には、「地域が主体的に経営する地域資源を活用した地域発着の観光商品を造成・開発・販売・運営する組織のこと」をいう。主として自組織エリアの観光による地域活性化を目的として地元出資の旅行会社法人、または協議会、実行委員会など、用途によって組織形態は様々である。2)狭義には、「2007年、国土交通省が「旅行業法」を改正して「旅行業3種旅行業特約制度」を導入したことが契機となって各地の観光協会、街づくり会社、旅館組合等が主体となって旅行会社法人化した組織のこと」をいう。「旅行業法新3種旅行業」は自営業所の所在する自治体と隣接する自治体までが発着できる募集型企画旅行の商品を企画・販売することができる。しかしながら、このように最近注目され、ブームとなっている着地型観光も全国的にどの程度拡大し、どのような経営をおこなっているか包括的研究が少ない。そこで本研究では独自に着地型観光データ83を集計し、着地型観光をさまざまな観点から分類し成功モデルを抽出した。【1】時間的には、国の観光立国宣言(2003年)から観光立国推進基本法成立(2006年)の間に、着地型観光組織は、徐々に開業件数が増加する。さらに、2007年、旅行業法が改正施行され第3種旅行業に着地型旅行業の範囲が認可されると、急速に着地型観光組織の開業が拡大した。(2006年以前)地域まちづくり指導者を中心に、組織は、民間団体出資のものが多い。株式会社、第3セクター等が、全体21件中10件ある。組織の財務内容は比較的良好である。各の組織の全収入中30%以上の自主財源を確保できている組織が、21件中13件ある。(2007年以降)公的機関が多い。全団体83件の内、2007年以降開業の62件となる。中でも37件が財団、社団、組合と多い。これは協会、外郭団体などの非営利団体による開業が多い。運営資金は、主に指定管理等の委託事業、補助金など公的費用が充当される。2)2007年以降、全83団体の内62組織が開業。2007年には、20件の開業と突出して多い。この年以降は、県レベルの組織が、着地型観光に着手し始める。茨城県観光物産協会、わかやま産業振興財団、鹿児島県旅行業組合などが挙げられる。単一体験型観光を目的とする組織から、地域再生と地域産業振興に関係する組織が増える。農業体験と加工食品づくりを包含する6次産業等との連携がふえ、また販路は発地の旅行業指向から、HP等、ICTを活用した市場への販促が増えていく。【2】開業年と開業所在地、地方としては、東北、中部、関西、九州に多い。県別にみると、1位長野県(9件)、2位長崎県(6件)、3位新潟県および北海道(5件)、4位和歌山県(4件)の5道県が代表である。【3】運営主体は、2006年まで、株式会社、3セク、有限会社、実行委員会組織等の民間に近い組織が、2007年以降の組織に比して多く目立つ。逆に、2007年以降は、行政団体に近い、財団法人、社団法人、一般社団法人、NPOによる着地型観光組織の件数が倍増している。財務体質からみると、2006年までは民間のしっかり型だが、2007年以降は公的なものが増えたが財務体質は自立性が低下したといえる。【4】主として旅行業、物品販売、宿泊業等自主財源を50%以上確保して、組織維持の可能性の高い組織25団体の特徴、共通点を挙げると、1)各組織の指導的中核人材の活躍に負うところが大きい。2)商品開発の特徴的手順として、地域市民を交えたコミュニケーションをとりながら、地域資源の発掘、整理化を行う。組織単独ではなく、関係住民に、気づきと誇りと新たな素材の資源化を行う。同時に住民人材の発掘に役立てる。3)組織が交流人口の拡大という具体的な目標をもっている。4)地域への来訪顧客の固定客化、会員化をはかり、CRM戦略にてリピート対策をとる。5)自主財源確保の手段として、観光に関わる複数の収入源を確保している。着地型旅行業以外に、物産販売、飲食宿泊、グッズ販売業等、顧客価値と動線の中で財源を確保に努めている。特に、宿泊業と着地型旅行業とは、組織運営上相互に利益共有を図るには有効な作用がみられる。6)顧客、販路チャンネルとして、旅行会社9、宿泊業9、HP10、近在客・会員団体3、流通業1、であった。【5】財務的に一定の成功を収める25の着地型観光組織の7つの項目と事業活動を俯瞰すると次のことが言える。㈰地域の多様な団体とコミュニュケーションをとり商材発掘と人材育成。㈪広域連携のとれた着地型商品を開発しながら、マーケティングを行う。㈫観光周辺の自主財源を確保する。㈬一定の顧客開発後は、CRM戦略で顧客固定客化する。㈭固定客がリピート化することにより、地域にとり安定的に旅客消費が循環。【6】着地型観光組織のマトリックス型4分類の提案:着地型観光組織を【都市←→地方】軸と、【営利←→非営利】軸である。2つ軸による4つのマトリックスで分解すると、次の4分類を得た【都市×非営利】類型=「A.まち歩き型」3件。【都市×営利】類型=「B.観光地起業型」30件。【地方×営利】類型=「C.地域再生型」30件。【地方×非営利】類型=「D.体験観光型」20件。
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