超小型モビリティの展開と観光地振興の可能性

要旨

【1】本研究は、超小型モビリティ(EV)による観光振興の有望な可能性を考察する。日本では、2006年の観光立国基本法以降、観光立国が国是となっているが、日本の観光地は、都市は路地、田園は里道が多く、多くの観光地では観光スポットが点在しており、その間をつなぐ回遊空間の形成とその交通手段の確保が観光による地域振興の最大の障害となっている。観光空間の重要なモデルとして、「ラケットモデル」がある。観光空間は「ラケットモデル」で表現されるため、二次交通としての超小型モビリティはラケット面を拡大し、需要そのものを拡大するのに適切と考えられる。「2次交通の整備」と「周遊拠点数」は比例、「周遊拠点数」と「経済効果」は比例という関係にあり、これにより、「2次交通の整備」が「経済効果」をうむ。これが回遊空間の理論(回遊空間の整備の根拠、経済効果をうむ)といってよい。本研究では、この「2次交通の整備」の有力候補が超小型モビリティであることを示唆した。(1)超小型モビリティの定義は、①軽である。②乗員2~1名。③8kw以下。④高速道路不可。(国交省の告示の2014年の規制緩和によって安全基準を緩められる)。(国土交通省ガイドライン(2012))<原付と軽自動車の中間>にあるものである(倒れないバイク)。(2)2名乗りEV=超小型モビリティは、5人乗りEVの弱点を克服する非常に多いメリットがある。1)「エネルギー」が通常車の1/6~1/10(抜群の低炭素性)。2)「駐車スペース」が通常車の1/3。3)「走行距離」は通常の5人のりEVと遜色ない:三菱i-MiEVのEV(5名)は180kmに対し、超小型モビリティ(2名)は100km。4)「特別充電器」不要:通常EVは高価な急速充電器が必要だが、超小型モビリティは家庭用コンセントでOK、通常EVが普及しない最大のネックを克服。5)「お年寄り・女性」に最適。6)「観光」に最適・・・排ガス・騒音なし、日本の観光地に多い、路地・里道・農道に最適。【2】国の超小型モビリティ普及政策は、①実証実験(2010、2011年)=>②報告書(2011年)=>③「ガイドライン(2012年)」=>④「認証制度(2013年)」の施行=>⑤補助制度「導入促進事業(2013年)」の実施、という順番となっている。これまでに、2010年実証実験を全国6地域と、2011年実証実験を全国7地域で実施し、国は、2013年に導入促進事業を全国30地域で開始。これらを目的別にみて、(1)観光型、(2)環境・技術(都心実験)型、(3)高齢者・福祉型、(4)住宅(郊外、地方)型の4つに分類できる。①全体の4割強が観光である。②件数として多いのは、九州・沖縄、中部、関東。③観光用途は西日本(近畿以西)が多い。また離島も多い、ことがわかった。以上から、実際に観光地へ導入されている事例の中から抽出して、「香川県土庄町豊島」、「北九州市門司地区」、「神戸市六甲地区」について検証した。【3】「ユーザーモデル」これらの事例研究から、独自のモデルを提起した。まず、ヒアリング・アンケート分析から「ユーザーモデル」を考察した。「利用者像は、意外に共通項があり、以下のようにまとめられる。①年齢層は20代~40代が中心。②利用形態は2名のりが多い。③意外にも、超小型モビリティそのものを楽しむ人が多い。北九州では、滞在時間が約30分延長される効果があった。これまでの観光客数に、超小型モビリティの魅力自身による需要がオンしている(純増の)可能性がある。(4)集客圏は、近隣県+大都市圏(東京、関西、中京)である。【4】「経営モデル」としては(1)基本型は、1)【基本イニシャルコスト】総額339万円である。(6台分で想定)。2)【基本ランニングコスト】総額80万3880円である。尚、減価償却費としては、営業所開設・整備、予約システム・ウェブサイト開設、充電器設置工事費の合計300万円を5年で償却することを基本とする。台数=x、売上単価=y、稼働率=zとして、損益分岐点式を導いた。台数xと単価yを設定したときの、事業が成立しうる限界(分岐点)稼働率の式が出る。z*=α(y)(1/x)+β(y) これから、台数が多いほど、限界分岐点単価・稼働率は低くてよい。単価を高くするほど限界分岐点稼働率は低くてよい。結論としては豊島(6台)モデルは民間ベースでも成功していることがわかった。【5】「回遊空間形成モデル」では、1.立地条件としては、(1)空間(走行環境)のコンパクトさ、ある程度の閉鎖性、(2)観光スポットの適度な点在性、(3)(公共交通等の)玄関口への接続性、2.車両システムとしては、(1)デザイン・ラッピング=車両への付加価値付与、(2)充電環境、3.関連観光条件としては、(1)ご当地グルメなどの地域観光資源の充実、(2)駐車スペース・休憩スペースの整備、などが重要であることがわかった。【6】「運営者モデル」としては、(1)運営主体は、行政と協働する民間企業であっても、NPOであってもよい、(2)しかし、レンタサイクルやカーシェアの経験や観光地マネジメントの経験があることがもとめられる、(3)今後の展開としては、ユビ電のような、IT企業との連携、走りのIT管理の応用が考えられる、などを得た。
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