イギリスの考古遺産法制と都市計画—イングリッシュ・ヘリテッジに着目して—

要旨

1.イギリスでは1882年から、古代遺跡の制定法上の保護が行われてきた。遺跡は現在、1979年の「古代遺跡および考古地域法(1979年法)」によって保護されている。1979年法に基づく遺跡保護は、「指定遺跡」に分類されるか「古代遺跡」に分類されるかによって保護の程度を異にし、指定遺跡には最大限の保護が与えられる(イングランドには現在、指定遺跡が約1万9700件あるとされる)。指定遺跡と古代遺跡に加えて、1979年法は「重要考古地域」についても規定する。古代遺跡(指定遺跡を含む)や重要考古地域は、都市・地域レベルの開発計画立法の下でも保護される。開発計画は古代遺跡や重要考古地域の保護政策を含んでおり、特に指定遺跡への開発の影響は開発計画許可申請を判断する際に必ず考慮される。
2.イギリスの遺跡保護行政を担う主な国家機関は、文化・メディア・スポーツ省(DCMS)、ナチュラル・イングランド、環境庁などであるが、これらの機関には考古学の専門家がいないとされ、DCMSの外郭団体であるイングリッシュ・ヘリテッジが遺跡保護に関する国レベルの政策を学術的に支えてきた。あくまでも特殊法人であるとは言え、イングランドにおける遺跡保護行政に対するイングリッシュ・ヘリテッジの実質的な影響力は大きい。2015年4月1日にはイングリッシュ・ヘリテッジが、「ヒストリック・イングランド」と「イングリッシュ・ヘリテッジ信託」という2つの組織に分かれた。前者が従来のイングリッシュ・ヘリテッジの後継法人であり、後者は新たな慈善財団であると同時に「イングリッシュ・ヘリテッジ」の名称を継承した。ヒストリック・イングランドの大部分がDCMSによって資金提供されている状況はイングリッシュ・ヘリテッジ時代と変わりないが、2022〜2023年までに財政的に自立することが目標として明言されており、国レベルの「ヘリテッジ2020」戦略におけるヒストリック・イングランドの貢献度と共に、今後の動向が注目される。
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