新しい宿泊形態(ゲストハウス・民泊)の出現による町家地域の再生の可能性−奈良市ならまち・京終地域の事例を中心に−

要旨

【1】奈良市における歴史的建築の最大の課題は、空洞化である。とくに町家で空き家が増えてきている問題で、放置をすれば取り壊される。活用を考える必要がある。また、奈良県における観光の最大の課題は、宿泊機能が弱いことである。これから、町家を改修し、宿泊施設にするという解決策が一石二鳥の政策となる。それには、簡易宿所営業のゲストハウスと、個人宅の利用である民泊がある。以上のような観点から、ゲストハウス、民泊の増加が見られる、ならまち及び京終地域を対象に調べたところ、新しい形態の宿泊施設が急増している、そこでこれらの分析によるまちづくりの可能性を考察した。【2】奈良市全体の宿泊施設は183軒であり、その内訳は旅館104軒、ホテル32件、簡易宿所47軒である。宿泊施設の開設は、1990年代は旅館、2000年代はホテル(21軒で、全体の6割)、2010年代からはゲストハウス(30軒で、全体の7割)が大勢を占める。旅館、ホテル、ゲストハウスの順である。分析枠組みとして、奈良市全域を4ゾーン「奈良市西部ゾーン」、「奈良市中央部ゾーン」、「奈良市中心地区ゾーン」、「奈良市東部ゾーン(農山村部)」、とする。そしてここで、「奈良市中心地区ゾーン」とは県庁前通り(近鉄奈良駅)北側のきたまちから、奈良町を通って京終町までの都心部を「奈良中心地区」とする。「中心地区」(きたまち、奈良町、京終等)を、A「近鉄奈良駅北」、B「きたまち」、C「JR奈良駅周辺」、D「猿沢池周辺」、E「ならまち西」、F「ならまち」、G「高畑」、H「京終」の8地区に分ける。【3】旅館、ホテル、ゲストハウスのいずれにおいても実数かつ密度において、「中心地区(都心)」が最も多く、「中央地区(西大寺、新大宮)」がこれにつぐ。軒数では、奈良市全体の183軒中92軒(50.3%)、室数では奈良市全体の4567室中3099室(67.9%)が中心地区に立地している。さらに、中心地区内部の8地区の構造をみると、1)旅館は、48軒あり、そのほとんどが1960〜1990年に開業し、地区的には、「猿沢池周辺」が最も多い。2)ホテルは、17軒あり、2000年代に開業が多いが、2015年から4軒が開業しており、再び増加傾向にある。地区的には「JR奈良駅周辺」が最も多い。3)ゲストハウスは、27軒あり、2010年代に23軒が開業されている。地区的には、「ならまち」が最も多い。密度的には、ゲストハウスは「ならまち」「猿沢池周辺」、民泊は「ならまち」「京終」、両者の総計でも「ならまち」「京終」への集積が進んでいることがわかる。【4】5事例「ナラマチホステル&レストラン」「桜舎」「琥珀」「ホトビル」「町家ゲストハウスならまち」、を考察し経営モデルとして3類型ある。(㈰成功型)「ホトビル」は、たまたま改修された物件を入手し改修コストを浮かし、かつ料理の専門家であることから、付加価値を顧客に提供して成功している。(㈪スタンダード型)「琥珀」「町家ゲストハウスならまち」は通常の規模でそれほど改修をかけない一般型といえる。(㈫高級型)これらに対し「ナラマチホステル&レストラン」「桜舎」はある程度本格的な投資でハイリターンをねらったもの。【5】ゲストハウス・民泊の地域再生モデル:ゲストハウスの地域再生効果は、飲食分離やイベントなど、通常のホテルより地域との結びつきが強く、地域再生効果が高いと考えられる。【6】民泊:宿泊施設としての町家の利活用については現在、「簡易宿所として整備する方法」と「短期間の賃貸契約を結ぶ方法」の2通りが行われている。民泊が成功するかどうかの鍵となっているのが、営業日数の制限である。Airbnbは物件は自分で所有しなくても、賃貸して転貸することで、所有コストもなく始められ、またキャンセルのリスクがないので、参加しやすい。多くの家が参加するようになっている。Airbnbを使って収益を上げている事例は多数ある。【7】京終駅を利用した回遊性構想:最後に、行政も、近鉄ないしJR奈良駅からならまちを通り京終にいくルートの回遊性を高めていく計画(IT、元林院の花街を復興JR京終駅整備)をもっており、上記のような開発はこれに呼応すると評価した。筆者(関川)は、今後の奈良町と京終をつなぐメインストリートとなる上ツ道と中ツ道にはさまれた旧東六坊大路の名称を復活させるか、なじみやすい命名をしてはどうであろうかと提案したい。【8】不動産価値の上昇:奈良市中央地区の公示地価の上昇率より奈良町の上昇率の方が高い。また奈良町の中では三条通りから都市計画道路の間が上昇率が最も高く、次にならまち、京終の順になっており、いずれも奈良市中央地区の公示地価の上昇率を上回っている。近鉄奈良駅からJR京終駅に至る南北の3本の道については、東六坊大路の路線価の上昇率が最も高く、次に上ツ道、中街道の順になっていることが分かった。
PDF