けいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)における企業立地の活発化に関する研究

土橋 裕貴

Abstract


本稿では、企業立地が全国的に厳しい中、例外的に、2000年代中葉からのサード・ステージ以降、企業立地が活発化しつつあるけいはんな学研都市について立地分析、アンケートやヒアリングの調査を通じて実態を調査したうえで、どのような原因や理由によりけいはんな学研都市に企業立地が進んだのかを分析・研究して明らかにした。まず本稿で検証してきた内容を整理する。けいはんな学研都市に関する研究は、小田(2012)を除けば多くは、学研都市が一時停滞したセカンド・ステージからサード・ステージ初頭までの分析であり、サード・ステージ以降においてけいはんな学研都市が活性化した後の研究はほとんどなく、特に重要な企業立地に関する研究はないので、企業立地が活発化し再活性化する2000年代中葉以降に焦点をあて研究をおこなった。【1】まず、けいはんな学研都市に立地する立地施設等の属性について分析を行った。2016年9月現在に立地する企業のうち、2002年の研究開発型企業の立地が始まった以降に立地した企業が約8割を占める。資本金は、2002年以前立地企業の方がそれ以降よりも約14倍多く、2002年以降に中小企業の進出が進んだことが明らかになった。移転元については、周辺地区が多く、特に製造業の街である東大阪を中心とした大阪府東部からの移転が多いこともわかった。また、以下のような結果を得た。1)けいはんな学研都市における企業立地には3つのピークがあり、「1990年代初め」「2000年代中葉」「2010年代の現在」である。特に、2006年と2013年が多い。この第2第3の企業立地ラッシュは、セカンド・ステージ終盤の2002年頃から研究開発型企業の立地を認めて、事実上、けいはんな学研都市内で製造を可能に規制緩和したことが大きい。2)立地場所は、時系列的に「平城(奈良)・相楽(京都)」→「津田(大阪)」→「精華(京都)」→「木津(京都)」の順で活性化する。3)立地企業は、大企業から大阪東部圏の研究型中小企業へ主役が移っている。4)業種別では、2000年代前半「情報・通信系や環境・エネルギー系」→2000年代半ば「機械・精密系の製造業」→2000年代後半からは「ライフサイエンス系」である。【2】アンケートの結果、けいはんな学研都市に事業所を設けた理由について、立地企業は既存拠点や大学・研究機関との近接性のネットワーク要因、テナント企業は、通勤等個人的アクセス要因、加えてアメニティ要因や補助金等の公的要因が重要であることが明らかになった。また、けいはんな学研都市に事業所があることへの満足度は全体的に高いが、逆に、一番の弱みは、中心部に鉄道網がないことであった。【3】支援機関では、「株式会社けいはんな」が京都府から運営委託を受けて運営している「京都府けいはんなベンチャーセンター」のフロアがある「けいはんなプラザ」、京都府の外郭団体である「公益財団法人京都産業21」が運営している「KICK」、経済産業省管轄の「独立行政法人中小機構」が同志社大学、京都府、京田辺市とともに運営している「D−egg」を調査した。立地企業の例として「A社」「B社」、テナント企業の例として「C社」「D社」「E社」へのヒアリング結果をもとに分析・研究を行い、それぞれの企業の立地要因からモデル化して以下のようなモデルを導き出した。【4】「立地モデル1—地域イメージの重視」:各社は、良い環境にひかれて移動し、またハイテク都市としてのイメージを利用してけいはんなを選択し、自身もハイテク企業というイメージを得ている。すなわち、クリエイティブクラスのアメニティ重視と「町工場から研究開発型企業へ」というイメージ転換がWin−winに作用し相乗効果を発揮していといえる。こうした地域イメージはクリエイティブクラスが地域イメージやアメニティに引かれるという「リチャード・フロリダの3つのTの理論」とも関係する。クリエイティブクラスがライフスタイルアメニティを求め、学研都市に集まり、その人材を求めて企業がけいはんな学研都市に企業立地が進む、そしてその集積により都市が成長するといった好循環の成長モデルである。【5】「立地モデル2−企業立地における個人的要因の優越」:これまでの古典的立地論においては、製造企業の立地主体は企業のロジスティックスであった。ウェーバー流の製造業を中心に「輸送コスト最小原理」に基づき、企業立地は企業の都合で決定されてきた。一方で、リチャード・フロリダは、立地要因が、企業側要因から社員の好む個人的要因へ変化しているとする。クリエイティブクラスの立地選好が重要であり、企業立地は居住地を第一義的決定要因として決定すると提唱している。社員の好む居住要因が重要となり、それに企業の立地が従う「人間次元」のウエイトが高まることと一致する。【6】「立地モデル3−産業クラスター的因子(研究機関・他企業ネットワーク)の重視」:各社は大学等研究機関へのアクセスと、他企業とのネットワークが有効であることを示しており、これは、ポーターの産業クラスター的要因が強く働いていることを意味する。産業集積論はもともとマーシャルが、ヨーロッパの地場産業都市を分析し、産業連関の近接性にもとづく「産業集積論」をとなえた。これに対しアメリカのポーターは、20世紀に勃興したシリコンバレーなどの新しい産業集積を研究し、ハイテク企業の立地は、競争と協同、研究機関・企業ネットワークが重要となり、近世の古い地場産業と異なる新しい集積をするとし、その新しい産業集積をクラスターと呼んだ。これが重要になったといえる。【7】「支援機関モデル」:㈰賃料の点からは、けいはんなプラザのベンチャーセンターが最も有利であり、KICKがこれにつぐ。㈪産官学連携の面ではD−eggが最も有利であり、KICKがこれにつぐ。㈫経営支援の面ではD−eggが熱心でありKICKも行っている。以上から、けいはんなのベンチャーセンターが文字通りベンチャー型といえ、D−eggが理工系の研究企業型であり、KICKがそれらの中間にあることがわかった。支援機関はミニクラスターとみなすこともできる。

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