自然栽培農法による地域づくりが成功する社会経済的条件の研究 -経済採算性、マーケティング、学習・ネットワークモデルを中心に-

南方 泉

Abstract


(1)いま、日本は人口減少、超高齢化で地域衰退がおこっている。衰退する地域でもとめら れる魅力が必要だが、どの地域でも存在する地域資源であり、いま地域活性化の切り札として 注目されているのが安全な農と食である。その理由はより安全な食をもとめるトレンドがお こっているからで、より安全な食のためには、より自然に近い農、すなわち自然農法や有機農 法が必要となっており、国や地方自治体も支援する方向である。しかし成功する事例は一部で ある。本研究では、その成功の条件を研究したものである。(2)まず、分類をおこない、有 機農法、自然農法の定義、概念、系譜をたどった。有機農法は、1971 年からの「有機農業研 究会」、一楽、保田、西村などによって推進されてきた。自然農法は、岡田(秀明・MOA式)、 福岡、などにより改良されてきた。さらに木村により自然栽培のトレンドが日本中に広まって いる。現在の日本で行われている主流の農法は、大きく分けて、1)いわゆる農薬や除草剤、 科学肥料を使用する多数派の「慣行農法」、2)農林水産省が推奨する健康で安全な栽培方法 「有機農法」、3)日本における「自然栽培」のトレンドは木村秋則によりもたらされている。 4)ほかに「自然農法」と呼ばれる農薬、化学肥料、除草剤を使用しない農法がある。(3) 事例としては、1)行政主導型「石川県羽咋市」JAと行政が連携した「自然栽培」による農 業改革(木村式)、2)NPO主導型「富田林市」地域食育コミュニティから生まれた自然農 法NPO法人と農業塾「根っ子の会」(岡田(秀明)式)、3)飲食系民間企業+NPO主導型 「NPO法人岡山県木村式自然栽培実行委員会」(木村式)、4)個人主導型「金沢菜園生活・ 風 来 」 を 調 査 し た 。( 4 )( コ ス ト ・ 経 済 採 算 性 モ デ ル ) 経 済 採 算 性 が と れ る の か を 研 究 。 農 事暦ごとに、4農法のコストを分析し、コストモデルを構築した。対象は慣行・合鴨有機・自然栽培・自然農法の水田である。その結果、1)コスト:自然農法は慣行農法より、手間はややかかる、水田作業コストは、慣行農法<合鴨農法<自然栽培<自然農法である。2)販売価格:しかし、市場価格が高く評価されはじめてきている。市場価格は、慣行農法<<合鴨農法<<自然栽培<<自然農法である。3)利益:販路などの課題は残るが、利益は、慣行農法<合鴨農法<自然栽培<自然農法である。さらに農林水産省が調査した全国の米農家経営状況と今回の調査の水田の4農法の農業粗収入から割り出した損益分岐点とF値を比較し同じ結論を得た。(5)(学習・ネットワークモデル)そもそも、自然農法、有機農法は、特別な知識を要するので、農業者は学習の必要がある。そのため、農業者同士で知識を伝達していく「学習・ネットワークモデル」を上手く構築していくことが不可欠であり、一種のソーシャル・キャピタル戦略が必要である。ここでは、1)はくい式自然栽培学習ネットワークモ デル、2)埼玉、農業スクール型・販売・東京自然栽培フェアネットワークモデル、3)木村 秋則氏から波及する現代の自然栽培学習ネットワークモデル、4)富田林市農業塾ネットワー クモデルを分析した。1)石川県羽咋市の「のと里山農業塾」は全国から営農希望の若い世代 が参加する。ここでは地域での手厚い支援がある。2)農業スクールソラシドから分布する埼 玉の人的ネットワークの中心的人物を軸とし無農薬はもちろん無肥料栽培が広がっている。 3)奇跡のリンゴで話題になった木村秋則氏から広がる人的ネットワークも埼玉の農業スク ール、岡山、羽咋市だけでなく全国的に影響力があることが明らかになった。ソーシャル・キ ャピタルとは、(条件1)ネットワークであり(条件2)信頼があり(条件3)互酬性・Wi n-Win関係やアイディアを活かす開放性などのあるものである。上記のように、自然農 法・有機農法で成功している事例では、地元に、無数の市民団体や公的団体、企業がつくる学 習組織があり、それらが信頼関係でつながり(条件2)、Win-Winで機能(条件3)し ていることがわかる。まさにソーシャル・キャピタルの存在が、自然農法・有機農法の成功を さ さ え て い る の で あ る 。( 6 )( マ ー ケ テ ィ ン グ モ デ ル ) 自 然 農 法 、 有 機 農 法 は 、 人 件 費 等 で コストは高くなるが、それ以上にブランド化に成功し、販売価格が上がれば十分経済的に成立する。これを4Pモデルでうまく分析できる。プロダクト=差別化された無農薬食材、プライス=高価格、プレイス=独自流通で、東京などの意識の高い立地で販売、プロモーション=安全・安心・健康を強調する広告、である。これを自然栽培・自然農法・有機農法の4Pモデルとする。これらを、事例「はくい式自然栽培」「岡山県木村式自然栽培」「大阪府木村式自然栽培実行委員会と株式会社ケイフィールズ」「有限会社サン・スマイル」「オーガニック事 業協会・自然栽培フェア」の5事例で確認した。「自然栽培」農法とは農薬や除草剤、肥料さ えも使用しない「自然の摂理に沿った農法」である、この農法が静かなムーブメントとなりつ つある。そしてマルシェスタイルという新しい自然食マーケットが定着しつつあることが明らかになった。


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