伝建地区(伝統的建造物群保存地区)の現状と課題-伝建地区全国アンケートからみたまちづくりのサスティナビリティ-

要旨

本研究では、保存と観光の調和という観点から、「伝統的建造物群保存地区」(伝建地区)制度を活用したまちづくりの事例について、その現状の分析と、今後サスティナブルなまちづくりを実現していくためには、どのような課題があるのかを分析することを目的としている。具体的には、全国の伝建地区担当者へのアンケートによって、まちづくりと地域の関係を抽出し、観光と保存から見たサスティナビリティのあり方について検討をおこなう。全国の「伝統的建造物群保存地区」は、約80地区が選定されている。「選定基準(一)」は、「商家町」「寺社町」などが典型例で1980年代・1990年代に指定が多い。「選定基準(二)」は、「武家町」「港町」などが多く、初期の1970年代に主流であり、かつ最近の2000年代に復活して急増している。地域的には、主に中国・九州地方が多い。「選定基準(三)」は、「山村集落」「宿場町」「産業町」などで1980年代・1990年代に指定が多い。アンケート調査結果から、多くの伝建地区では、地方部では「過疎問題」、大都市圏では「旧市街空洞化問題」のため、1)「地区人口」、「地区世帯」は減少傾向、「地区の空き家数」は増加傾向、にあるにもかかわらず、2)「観光客数」自体は増加、「店舗数」も観光客数に合わせて増加しつつあるところが多いことがわかった。このことは、伝建地区制度が地域振興に貢献している一定の成果であると考えられる。特にまちづくり組織が多いところは観光客数も多く、地元の努力が高いといえるだろう。しかしながら、以下のような課題が存在する。第一に、後継者問題、空き家対策・保存のための支援ができにくい問題である。第二に、文化遺産の活用など観光客を迎える駐車場の整備や地区内での経済活動の機会を増やし仕事の場の創出を待ち望む意見が多い。多くの伝建地区では、人口・世帯数の減少を招き空き家が年々増加するなかで、どうすれば地域が守れ、建物の保存が図れるのか、活性化対策として、地域振興が可能かどうか、が大きな課題である。町並みの保存には、人口の減少を食い止める地域環境作りと、空き家の維持管理が重要である。そこで、町並みの保存と生活の調和を図りながら、観光的魅力を持つ資源の活用を図り、保存をしながらも、サスティナブルな経済活動の導入、すなわち、地域産業としてサスティナブルな観光政策を導入することが考えられる。
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