要旨
これまで様々なところで商店街の活性化が試みられてきた。その中には、衰退して人通りの
絶えていたところが、再び賑わいを取り戻したところもある。たとえば、滋賀県長浜市の商
店街地域は衰退していたが、ガラス工芸という新しい事業を取り入れた「株式会社黒壁」の
努力で、観光客が多数訪れるようになり、賑わいを取り戻すことができた[小長谷一之2005]。
また、大阪市福島聖天通商店街は、「占いプロジェクト」を実施して若い女性客を増やし、衰
退に歯止めをかけた[牛場2006]。これらの商店街の活性化策は、地域特有の観光資源を利用
したり、大型店の提供しにくい経験や参加を取り入れたりして再生している例である。しか
し、これらの活性化策はどこの商店街でも通用するわけではない。射手矢武・牛場智・吉川
浩[2009]によれば、商店街において大型店等の環境変化に対応して生き残る、差別化や顧
客満足を実現するのには、大きく2つの方向がある。
(方向1)(近隣機能強化)商店街の旧来の近隣機能(生鮮三品・最寄り品等の供給)を革
新・強化する方向、
(方向2)(広域化機能強化)商店街の旧来の近隣機能(生鮮三品・最寄り品等の供給)の
強化よりも、より新しい付加価値を追加する(高付加価値化)方向、
である。黒壁などの観光商店街化の手法は(方向2)に近い。しかしながら、筆者は、商店
街本来の機能(方向1)を強化することも、商店街存続のためには、原点的な重要性をもっ
ていると考える。全国の商店街の活性化への取り組みを調査した『がんばる商店街』のデー
タを分析し、活性化要素を分析した結果、「近隣型・地域型商店街」では、「一店逸品運動」「ス
タンプ・カード事業」「アンテナショップ」「チャレンジショップ」「子育て支援」「エコ活動」
「NPO連携」「商学連携」「イベント活動」において特化係数が高いことがわかる。このう
ち、「アンテナショップ」「チャレンジショップ」「商学連携」「エコ活動」などは一部の商店
街の特殊な条件による場合が多く、「観光事業」は本来の意味での近隣機能とはいえない。
大阪市内の近隣型・地域型商店街について、活力を失っていない「三泉商店街」「駒川商店街」
「スマイル瓢箪山」の3つの商店街について、近隣機能の維持・強化のメカニズムを調査・
分析したところ、
1)固定客に対する「①スタンプ事業(全体)」「②高齢者対応(個店)」、
2)新規客に対する「③一店逸品(ブランド)戦略(個店)」「④広報戦略(全体)」、
3)商店街経営基盤強化のための「⑤駐車場等戦略(全体)」、
の5つの要素が重要であることがわかった。5つの要素について、商店街の近隣商業機能の
維持・強化とどのようにかかわっているのかを検討した。ここで、通常の経営学では、企業
ベースのマーケティングとなるが、商店街の場合は、企業の集合体であるので「地域マーケ
ティング」としての解釈が必要になる。1)プロモーションするマネジメントの主体は「商
品」→「商店」→「商店街全体」の3つのレベルで考える必要があり、2)顧客も「固定客」
と「新規客」の2つにわけ効果が異なる、など複雑な構造をもっていることから、こうした
構造を考慮して、近隣型商店街活性化の5戦略モデルを図式化した。