「観光立国」に資する欧米系外国人の観光行動論

要旨

日本が観光国として成長するにあたり必要な戦略として積極的に「外需を取り込む姿勢」、とりわけ「インバウンド(訪日外国人誘致)の強化」が挙げられる。わが国は、国際観光は、高度成長期以降、久しく日本人の海外旅行(アウトバウンド)が中心であり、旅行会社等もほとんどそれに対応した体制しかとれていなかった。しかしこれからは、高度なサービス立国という点で、わが国の観光に、外国人を誘致する日本への旅行(インバウンド:輸出)こそが求められている。そのようなインバウンドの政策のため外国人行動論を研究する必要があるが、1)昨今の訪日観光客で多いとされる「中国系外国人」の観光行動は、木沢(2008、2009)などによって研究され、アジア系では、中国内陸住民→中国沿岸部住民→香港住民→台湾・韓国住民の順で明確なパターンがあることが研究されている。2)一方で、「欧米系外国人」の観光行動は、いまだ研究されていないのが現状であるので、研究をおこなった。 【1】事例研究:近年、欧米系外国人の来訪が目立つようになった特徴的な地域がいくつか存在するので以下を実態調査した。(A)大阪市中心部にある天王寺・動物園前のバックパッカー向けホテル、(B)和歌山県北部の真言密教の聖地・高野山、(C)和歌山県中部の修験道の聖地・熊野古道、(A)は、社長自らバックパッカー経験を生かし、3000円程度のリーズナブルな宿泊費と改装で成功した例である。強力なインターネット誘客をおこない、宿泊客はほとんどがネット経由での申し込みとなり、内約30%のブログによりエントリーする欧米系外国人バックパッカー客が増加し、周辺地域が再生・イメージ転換することにも貢献している。(B)は、もともと日本人100万人の観光地であるが、インバウンド観光を推進。和歌山県ともタッグを組んで、地元のスイス出身の住職が活躍、世界遺産登録・ミシュラン登録三つ星を獲得し、フランス人を中心に欧米系観光客約4万人が訪れるようになった。地域の主体は観光協会・宿坊組合である。(C)は、やはりインバウンド観光を推進、元ALT(英語指導助手)で来日したカナダ出身のビューロー職員が活躍し、世界遺産登録され熊野周辺を訪れる外国人旅行者は90%が欧米豪州からの若い個人旅行者が占めるようになっている。特に地域主体の「田辺市熊野ツーリズムビューロー」が「着地型観光」を目指し「情報整理」「おもてなし教育」「プロモーション」の3つの柱を推進、誘客は成長している。 【2】分析とモデル化:本研究では、これらの調査結果を総合し、さらにアンケート調査・分析をおこなった結果、「欧米系外国人観光行動の4モデル」として、(1)欧米系外国人観光の予算面-「合理主義」全く予算を決めないというパターンは少なく、当日の予算とイン・アウト計画は決める、(2)欧米系外国人観光の意志決定-「自由志向」しかし当日の途中の予定はフレキシブル(臨機応変)に展開させる可能性が高い、(3)欧米系外国人観光の形態面-「個人主義・長期滞在」欧米系は個人・長期、非欧米系は団体・短期、(4)欧米系外国人観光の動機面-「スピリチュアル・エキゾチック・異文化志向」エキゾチックなものへの関心が高い、が特徴的であることを得た。 【3】着地型観光戦略の重要性:さらに、これらの外国人の個人的旅行需要にきめ細かに対応するのは日本ではまだ少ない「着地型観光組織」が望ましいが、和歌山県の「田辺市熊野ツーリズムビューロー」は「着地型観光」を目指し特に外国人観光旅行者に重点をおくとの姿勢から「外国からの予約」を直接受けたり(第2種旅行業)、地域で外国人の接客の教育を行うなど、インバウンド客を率先して受け入れ成功している事例であることをみいだした。 【4】政策論:欧米系外国人インバウンド観光振興のためには、上記の研究を踏まえて、1.予算が限られている場合上記4モデルの条件を備えているところを優先的に整備、2.観光全般のインフラ整備やネットを含む広義の広報において4モデルの志向性をふまえた効果的な誘客、3.外国人キーパーソンに企画・教育・広報面で活躍していただく、4.着地型観光組織の育成、5.異文化コミュニケーション対応、6.ホスピタリティ教育、などが重要になってくると考えられる。
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