3Eのトリレンマ解消をめざす市民共同発電モデルに関する研究 -市民を応援する公共政策の視点から-

要旨

本研究では、21世紀に問題となっているいわゆる3Eのトリレンマ(「経済発展」、「資源・ エネルギーの確保」、「環境の保全」の3つをすべて成立させることはできないという矛盾) を解決する切り札として期待されている「再生可能エネルギー」とくに「太陽光発電」の市 民共同発電モデルについて、成功モデルを検討し、そのすぐれたメカニズムを抽出して、今 後の政策の一助としようとするものである。市民共同発電に注目する理由は、再生可能エネ ルギーは、「地産地消」や「持続可能性」の観点から、市民が中心の市民共同発電所が重要に なる特質を持っているとともに、地域経済の循環のためには、地域外大企業の経営するメガ ソーラーより望ましいからである。その際、市民共同発電であることから、市民が主役であ ることは同然であるが、市民共同発電所の成功事例の背後にある公共政策的諸条件(行政の 役割、地域経済の位置づけ)に関する視点をとった。成功する場合には、やはり、行政や地 域の公的機関、制度が意味を持つが、それがどのようなものか、を明らかにした。再生可能 エネルギーの再生可能たる優れた点として、燃料が要らないか非常に安いという「持続可能性」がある。太陽光、風力、地熱は、ランニングの燃料が不要であり、バイオマスはランニ ングの燃料は格安であり、二酸化炭素は増えないカーボンニュートラルである。これに対し、 再生可能エネルギーでない、火力、および、原子力は、ランニングの燃料が膨大にかかり、 原子力はさらに巨大なバックエンドコストが生じる。上述の理由から、再生可能エネルギー の方が、経済と環境を調和させ、いわゆる3Eのトリレンマの解決の切り札となりうる可能性をもっている。しかし、再生可能エネルギーは市場が成熟していないので、初期投資がか かることから、日本政府も原子力発電推進政策から政策を見直し、2012 年 7 月からは再生可 能エネルギーの普及に強力な効果がある「FIT(固定価格買い取り制度)」が始まっている。再生可能エネルギーは、「地産地消」や「持続可能性」の観点や地域経済の循環のためにも、 市民共同発電が望ましが、しかし新しい試みであることから、まず実態をつかむ必要から、 市民共同発電の分類論を行った。筆者独自の分類論として、C(市民)+B(自主ビジネス) +E(エコマネー)の3要素で分類した。その結果、太陽光発電の市民の取り組みに熱心な 滋賀県で、3Eのトリレンマ解決のために配当・還元し、経済が地域循環する、地域通貨を つかった配当モデル「C2E型」であり、かつ市民共同発電所の先駆けとなった、滋賀県湖南 市、東近江市の事例を検証する。また、太陽光発電の市民例が、滋賀同様に多い大阪府で、 かつ大阪らしい新しいモデルである、自主事業もやり地域通貨を利用する市民共同発電所を 設置している「BE型」の大阪府池田市の事例について検証した。これら3市の事例から、 市民共同発電の成功モデルについて考察した。これらの事例を総合して、成功している市民 共同発電所モデルの要素として、以下の4点を得た。 ●市民共同発電所モデル(1)採算性:FIT以前では、市民の寄付や会費で建設し、必ず しもリターンがないか、または長期のリターンになる。しかし、FIT以後のモデルは、配 当できるか、エコマネーで配当し、約10年前後で設置費用を回収できるできることがわか った。 ●市民共同発電所モデル(2)背景としての市民力:再生可能エネルギー、特に太陽光発電 の成功例は、より導入に有利になる政策であるFIT(固定価格制)が本格的施行される2 012年のはるか以前から、市民が主体となり取り組まれていることがわかった。FIT以 前は導入の条件はより不利な条件であったが、それにもかかわらず、これらの先駆的な事例 では、市民発電所も市民が出資したり(湖南市や東近江市の類型C型)、あるいは独自のエコ ビジネスを行い(池田市の類型B型)、市民が主体となり取り組んできた。こうした背景には 地元での高い環境意識、すなわち市民力の存在があった。これらにはソーシャル・キャピタ ル論的位置付けができる。 ●市民共同発電所モデル(3)環境政策への公共政策のイニシアティブ:成功事例ではいず れも、市民が主役であるにもかかわらず、公的セクター(行政、公共団体)の支援が陰に陽 にあり、それが非常に効果的に支えとなって、市民活動を育ててきたことがわかる。湖南市、 および、池田市では、条例や計画を策定し、市民活動を背後から応援してきた。東近江市は、 経済団体である商工会議所が応援しており、やはり公共性ある団体が支えているといえる。 池田市では、市長が 2001 年に環境基本計画や 2009 年に新エネルギービジョン策定を、湖南 市では、市長が 2011 年の緑の分権改革や 2012 年の自然エネルギー基本条例を制定した。また、東近江市では八日市商工会議所が中心となって、市民共同発電所を設置し、それを支援 する形で東近江市が公共施設への屋根貸しのガイドラインを制定している。 ●市民共同発電所モデルモデル(4)-地域経済循環モデル=地域通貨:3Eのトリレンマ 解消のためには、環境・エネルギーだけでなく経済も循環しなければならない。外部資本が 太陽光パネルを設置するだけでは、地域で生み出された富が地域外へ流出してしまう可能性 がある。これを改善する有効な方法がエコマネー(地域通貨)システムの導入であり、配当 を地域通貨で行うことで、エネルギーと経済が地域内で循環できる。このような点は、後発の都市の政策にとっても参考になると思われる。

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