アウトドア・ツーリズム都市構築の可能性 ―自然環境と観光を活かした自治体の活性化戦略―

要旨

本研究は、アウトドア・ツーリズムを切り口とした都市・地域振興の可能性について考察した。まず、アウトドア・ツーリズムは、もともとアウトドアスポーツからきているので、スポーツツーリズムの一種ともとれるが、近年は、健康・自然・癒やしなどの側面がメインとなり、むしろ、スポーツツーリズムと、ヘルスツーリズム、エコツーリズムのすべての要素をもち、地域振興において重要性が増していることを明らかにした。また近年におけるアウトドアブームの現状と社会的背景として、1.参加型志向、2.自然志向などの高まりがある。次に、アウトドア・ツーリズム地域(セラピー系)の分類をデータからおこなった。(1)地域的特徴としては、中部(とくに長野県)、九州(とくに宮崎県)に多い。(2)難易度的特徴としては、2時間以内、標高差100m程度の低山型が多い。しかし、関東・信越地方、近畿地方には、歩行が4時間以内、標高差が300メートル以内のレベルのやや高い傾向が見られる。本州中心部では、地形が多様で、多様なコースがあり、また都市から近く便利なので、時間がとれ、難易度の高いコースもありうる。つぎに、アウトドア・ツーリズムを地域づくりに生かした先進地の事例研究として、1)都市近郊型(セラピー基地含む)の東京都奥多摩町、2)都市近郊型の東京都八王子市高尾山、3)都市縁辺部型(セラピー基地含む)の滋賀県高島市、4)地方型の長野県上高地、5)地方型のスイスアルプスの事例を研究した。それらからあきらかになった成功事例の共通モデルとして、まず、アウトドア・ツーリズムにおいては、革命的ともいえるマーケットの変化が1990年代以降おこっていること(市場論)をのべた。すなわち、【1】通常の登山からセラピー型へのシフト【2】ジェンダー構造の変化=女性への拡大【3】年齢階層構造の変化=若年・壮年男性から、シニアへ拡大があることをデータから示した。またアンケート結果から、都市近郊型では、㈰大都市近郊で便利であるにもかかわらず、㈪地方にくらべて遜色のない美しい自然があること、という2点が非常に評価されていることがわかる。このことから、アウトドア・ツーリズム戦略は、特に大都市近郊の(大都市圏外郊外)の自然豊かな自治体において最適な地域振興政策である可能性がある。つぎに、こうしたマーケットの変化に対応した都市地域整備の方向性を検討した。まず、登山ブームのトレンドとして、大城による2分類に対し、登山のソフト化の流れは、まずエコ・自然志向のシニア等を中心としたブームがあり、本格的な女性の参入は2000年代前半であることを分析からえたので、以下のような3区分を示した。第1次ブーム(1970年代まで)(若年、男性)「スポーツとしての登山」、第2次ブーム(1990年代〜2000年代前半)「シニア中心のエコ型」、第3次ブーム(2000年代後半以降)「シニア+女性による癒し・ヘルシー型」である。つぎにこのようなシニアや女性を主体としたユーザ側の変化は、舞台である山側の変化に対応すると考えられ、それは、地域整備においても、高山型と低山型の二極分化になってあらわれていることをみた。以上から、アウトドア・ツーリズムによる自治体活性化戦略として、以下の4つをまとめた。《1》「セラピー基地戦略」嗜好の変化に対応したハード整備として、セラピー基地戦略が有効。セラピーの認可制度、さらにセラピー効果を高めるソフトな㈰森林セラピーガイド制度、㈪森林セラピスト制度、(以下奥多摩町)㈫セラピー癒宿(ゆやど)認定制度、㈬森林セラピーアシスター認定制度、㈭森林セラピーツアーなどの形態がある。《2》持続可能な自治体経営戦略(高島モデル)㈰既存施設の活用(スキー場、キャンプ場、温泉施設、登山道、グラウンドゴルフ場等)をしつつ、そのまわりにセラピーロードを整備していること、㈪分散型・自立運営型(各施設が運営)であることにより、㈫結果として、低コスト・低予算である。行政負担をできるだけ少なくし、低コストで運営を行っている。このように、独立採算制で自立型にすることにより、自己責任と持続可能な運営を目指そうとしていることが伺える。この高島モデルは、これから、アウトドアをまちづくりに取り入れようとしている都市において、十分応用できる一般化モデルとして、参考になるモデルであるといえる。《3》交通整備戦略=回遊性の強化:これはスイスの例からも明らかで、ハードな山登りからソフトなシニア・女性を中心とした「セラピー型」に移行するのだから、かなりの部分は交通機関がサポートする必要がある。奥多摩のセラピーロードも、身障者むけのケーブルカー、高尾もケーブルが整備されている。また、これからは、軌道型の公共交通だけでなく、「超小型モビリティ」=1〜2人乗りのEV車の活用も重要となるであろう。河内長野のように自然の多い地域を既存公共交通が走っている場合、駅でおりて次の駅で帰るような「併走ルートを整備する戦略」もある。《4》アウトドア産業振興戦略 「高くても売れるアウトドア市場の沸騰」と、高機能とイベントが軸、価格競争とは無縁の業界であることから、アウトドア産業とのコラボレーションをおこなう。以上から応用政策論として、今後は、アウトドア・ツーリズム都市・地域を目指すことが都市・地域振興でも有望であるが、中高年の事故が増大していることから、安全を確保した自治体が成功するという政策論がうまれてくる。
PDF