6次産業化による持続可能な農業の条件分析 -高付加価値化・分業・有機等-

要旨

近年、農業の再生のために、6次産業化という概念が期待されている。これは、農家(1次産 業)がこれまでの伝統的におこなってこなかった加工(2次産業)や流通等(3次産業)の機 能をもつことにより、より高付加価値のビジネスを実現し、収入を確保して、経営を活性化し ようという試みである。しかしながら、近年、新規の取り組みや参入が減りつつあるため、政 策としても、より高次な段階に入ることが求められている。本研究では、農業の6次産業化に おいて、持続的な経営に成功しているメカニズムを、兵庫県・奈良県のハーブ農家を事例とし て研究を行い、6次産業化政策をより高度化させるための基礎的知見を得ることを目標とし た。【再生の芽のある日本農業】(1)日本農業に再生の兆しがみえる:1)農業産出額と生産 農業所得は、近年、2015 年、2016 年と2年連続で回復傾向にある。とくに所得は、ピーク時 以降、最低であった 2009 年の2兆 5946 億円に比べ、回復傾向にあることがわかる。2)近 年、農業交易条件指数も、回復傾向にある。(2)6次産業化の概念:1)定義:6次産業化 とは、1990 年代半ばに東京大学名誉教授である今村奈良臣(以下、今村)が提唱した概念で あり、「1次産業(農林漁業)×2次産業(加工・製造業など)×3次産業(流通・販売・観 光業など)=6次産業」と示すことができる。2)経済的背景:これは、加工食品や外食の浸 透に伴い消費者が食料品に支払う金額は増加してきたものの、その付加価値の多くは、大半が 都市部に立地する食品製造業や流通業、外食産業に落ち、農林水産物の市場規模が減少すると ともに農山漁村が衰退してきたことから、「農家などが加工や販売・サービスへ事業を拡大し、 農林水産物の付加価値を高めることで、所得向上や雇用創出につなげることを目指したこと がきっかけ(和歌山社会経済研究所)であり、「消費者直結戦略(小長谷)」である。(3)6 次産業化の主体論:1)川下(流通業者)主導型バリューチェーンと川上(生産者)主導のバ リューチェーンがあるが、後者が望ましい。2)政策の方向:「農商工等連携促進法(2008)」 は商工主導で、農林漁業者サイドからみると、単なる原材料提供に終わる傾向にあるのではな いかとの指摘もあり、農林漁業者が主体的に事業展開をすべきという考えの下、農論漁業の振 興策として、「6次産業化・地産地消法」が施行された(小林俊夫 2013)。したがって「6次 産業化・地産地消法(2010)」の方が生産者主導である。 【統計データ】6次産業化における総合化事業計画の認定件数が多い地域は、九州、関東、近 畿と続くが、全農家(農業経営体数)に対する比率からすると、北海道、近畿、沖縄が高い値 を示している。また、認定農業者に対する比率からみても、沖縄、近畿が高い値を示している ことが分かった。この結果からわかるように、実は、6次産業化は、近畿地方が他地域に比べ、 リードしている農業再生運動であるといえる。6次産業化とは、都市型農業革命という側面を もつといえる。しかしながら、6次産業政策は、全国的には、新規登録数からみるとややマン ネリ化しつつある。その点からも、本研究では、他地域より先行していると考えうる近畿地方 の例を調査し、今後どのような点に集中すればよいのか、この6次産業化政策に寄与すると思 われる、すぐれたメカニズムを分析した。【事例】優良事例の多いと考えうる近畿地方におい て、中でも一人あたりの売上高の高い事例と総資本回転率の高い事例を優良事例ととらえ、抽 出するとともに、設立年数も考慮し、以下の事例を研究対象とした。1)兵庫県たつの市「株 式会社ささ営農」、2)兵庫県姫路市「株式会社香寺ハーブ・ガーデン」、3)兵庫県三木市「株 式会社みきヴェルデ」、4)奈良県宇陀市「有限会社山口農園」である。【モデル】持続的な農 業経営において、4事例すべてが、3つの M による非常に共通した性格をもっていることが わかった。(1)材料(Material):作物面では、「ハーブ・薬草系の高付加価値作物」に力を入 れている。(2)人(Man):労働面では、加工だけでなく、農業全般に「分業・合理化」を進 めている。(3)方法(Method):手法面では、「有機・自然栽培」を進めている。そこで、以 下のこの順番でモデル化をおこなった。(モデル1 材料(Material))「ハーブ・薬草系の高付加価値の作物」を導入している。これまでの農産物とは異なり、より高付加価値の作物を研究する必要があり、その典型例が「ハーブ・薬草系の作物」である。本研究では、ハーブ・薬草系の作物が、日本全体の農家の平均 的な選択より、成功している6次産業農家において、出現頻度が高いことに注目し、有望な作物であることを確認した。(モデル2 人(Man))「加工だけでなく、農業全般の分業・合理化(製造業的観点の導入)」に努めている。全プロセスの分業まで到達する。6次産業化により、農家に、2次産業(加工)、3次産業(流通・販売等)の機能が入る。ここで重要なのは、製造業的な考え方が導入され、農業自身も分業化がなされることである。これまで農業といえば、個人が終日フルタイ ムでおこなう重労働という先入観があったが、収穫はシニア、袋詰めは主婦など、適材適所で 分業し、これまで労働に参加できなかった人たちを分業で参加させることにより、「働き方改 革」にも貢献できるようになる。以上より、これまでの農業の常識では1日中専業していた が、これも製造業的視点にたてば、業務を分割し、働きやすくすることは合理的であるといえる。(モデル3 方法(Method))「有機・自然栽培」で販売価格の向上をはかっている。ハーブ・薬草類は、有効成分に、防虫効果があるため、有機・自然栽培にむいている作物である。安 全・安心の食を求めるトレンドから、有機・自然栽培は、ブームとなっている。したがって、販売価格を高くでき、この点でも有利である。 以上、モデル1~3は、お互いに高め合う、相乗効果(シナジー)により、三位一体の典型例 になっていることがわかる。

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