「人工光型植物工場」のモデル —持続可能な植物工場の普及を目指して—

要旨

【1】植物工場とは「施設内で植物の生育環境を制御して栽培を行う施設園芸で、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、植物の周年・計画生産が可能な栽培施設」である。

【2】伝統的には、①「太陽光型」、②「太陽光・人工光併用型」、③「人工光型」の3分類ある。

【3】農業の担い手不足問題あり、高温多湿で病虫害多く、気候変動の激しい日本では、人工光型植物工場に対する期待は大きく、長年技術改良の結果、黒字企業がようやく表れだし、ブームになり、実用化段階に入っている。日本において人工光型植物工場の優位性(メリット)は非常に多い。(1)安全性の高さ、農薬が要らない(気象コントロールの難しく、病虫害の多い日本に最適)(2)自然に左右されない。年間を通した安定供給体制。栽培期間延長や生産性向上(3)人手不足解消。ロボット化できる。(4)日本のお家芸、輸出基幹産業の有望候補。オランダは太陽光型、日本は人工光型に優れる。今後、輸出製品化し、農業不適国(砂漠国、寒冷国)を農業大国に変える夢もある。

【4】(完全人工光)開設年×都道府県分布の分析をおこなった。(1)(時間的分類)開設年の分布では、1)2010年代に急増、2)2010年〜2011年と2013年〜2015年に開設ラッシュ、2014年に31工場でピーク。(2)(空間的分類)開設分布については、1)都市近郊立地の法則(需要要因、マーケットへの近接性)、2)特殊気候・離島地域立地、3)低電力料金地域立地の法則、4)補助金立地(復興支援、原発立地産業支援)、5)都心(東京、大阪)に店舗併設型ショールーム設置の法則、6)露地ものと植物工場の地理的補完の法則、レタスの産地への立地敬遠。

【5】事例研究は以下をおこなった。(1)さらに高度な完全人工光型なら、「肥料過多(硝酸塩)」の問題点も解消し、自然農法を実現する例(京都府立大学)。(2)セラミック・ハイテクが多品種を可能にし、地域密着型ビジネスモデルの例(ハイトカルチャ株式会社)。(3)採算可能な大量生産に成功した企業。歩留まりの改善、自動化、物流ネットワークの力が黒字の実現を可能にした例(株式会社スプレッド)。(4)産官学連携により、生産コストの大幅削減を実現した例(大阪府立大学)。(5)レタス以外の作物(イチゴ)の栽培を可能にした例(日清紡ホールディングス株式会社)。(6)レタス以外の付加価値の高い野菜(健康食品・化粧品用)の栽培を可能にした例(日本アドバンストアグリ株式会社)。

【6】「企業規模モデル」完全閉鎖型植物工場において、大きく分けて2パターンの成功モデル「大規模量産型モデル」と「多品種少量生産・高付加価値型モデル」であることを示した。
【6−1】「大規模量産型モデル」(1)植物工場に参入した大企業の出身業種からみた分析として、1)製造業出身企業は、新たな栽培品種に積極的に挑戦し、市場を開拓する。2)建設・設備業出身企業は、技術面、設備面で貢献。3)小売業・サービス業その他は、販売先を確保した上で、栽培方法が先行企業等から。4)物流・卸売業者。5)材料・部品調達(資源)業者。(2)大量生産型の戦略:1)大規模化の法則、2)植物工場の3大コスト減価償却費(設備投資費)、人件費、光熱水費。それぞれにおいて、できる限りのコストの削減を図る、3)ロボット化、4)IOTの活用、5)まずは、小規模の植物工場で栽培する、6)ものづくりにおける現場のカイゼン作業が重要、7)売り先の確保も最重要、8)電力コストへの考慮。
【6−2】「多品種少量生産・高付加価値型モデル」多品種とすることで、多様な消費者にあった製品を提供でき、大量の在庫も持たなくてすむ。生産効率は落ちる。人工光型植物工場の小規模高付加価値型(多品種少量生産・おせち型)のモデルとして、1)高付加価値型は、単価の高い栽培品種を選定することが大切。2)(露地ものとの時間的補完性の法則)露地がでない季節に売る。3)(露地ものとの空間的補完性の法則)露地のない地方で売る。4)地域で作り地域で販売する地産地消モデル。5)廃校活用、廃工場などに設置し、初期投資を抑える。

【7】「採算性モデル」(1)採算性分析のこれまでの例では、照明費が高い時代の公式で、しかも1株当りの採算性を重視しているものや、あくまで決まった1つの特殊事例に関する分析であり、公式をもとめていない。(2)本研究では、面積モデルの構築による、高層化効果の評価と、公共政策への知見をえる。(視点1)筆者は公共政策に携わるものであり、ある地域の土地に産業を誘致する、またはある地域で土地利用が空いた場合、あるいは今後、空き家問題などができてきた場合、その土地面積規模に対して、どれだけの植物工場を計画すればよいのか?という観点が、公共政策や、実際にその事業をおこなう経営者にとってもっとも重要な視点である。したがって、すべての公式を面積から還元して説明する公式が最も必要なのでその方針とする。他のモデルのように、照明費や1株あたりの視点をとらない。(視点2)以下のように、人工光型植物工場では、高層化することにより、メリットが高まる。したがって、最終的な公式は、生産や費用を説明する各種公式とともに、適当な階数、損益分岐点が出てくるものでなければならない。(3)人工光型は、単純に建物の面積と栽培棚面積に着目する必要がある。(4)詳細なデータのある事例から、階数をL、有効係数をδとする以下の面積公式をえた。【収入(生産関数)】P(万円/年間・㎡)=δAL×3.6【コスト(費用関数)】C(万円/年間・㎡)=I+R=4A+δAL=A(4+2δL)【損益分岐点公式】δL=2.5。これにより、専用工場の場合、δ=1/2程度で、研究機関等で実験室が付随すると、採算をとるための高層化の階数は、以下のように評価できる。δ=1/2(専用工場)の場合、採算がとれるのはL=5段。δ=1/4(研究機関等で実験室が付随)の場合、採算がとれるのはL=10段。(5)より巨大な大規模化した人工光型植物工場が黒字化を達成するための考察:1)設備面で、イニシャルコスト(減価償却費)を下げる。補助金を受ける。地価下の安い場所に建設する。廃校や農地に建てる(規制緩和も関係)。2)生産面で、ランニングコスト(光熱水費)を下げる。電気料金の半額を助成する。北陸や東北は、他地域と比べて安い。夜間電力の割合を高める、エネルギー系企業が参入する。再生可能エネルギーを活用する。3)ランニングコスト(人件費)を下げる。ロボット化。4)流通・販売面で、流通・販売コストを下げる。消費地に近い都心部で生産する。独自の販売先を開拓する。5)商品価値の高い栽培方法を開発し、販売価格を上げ、売上を高める。

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