都市経済の基盤性と産業連関の観点からみた教育産業の意義−岡山市等の分析−

要旨

 本研究の問題意識と目的は以下の点(1)(2)(3)にある。
(1)(基盤性の高い高次のサービス業の課題)一般にはサービス業は製造業に比べ、「経済基盤性(他地域から所得を獲得する能力)」が低いとされてきたが、サービス経済化や地方再生がさけばれる中、基盤性の高い高度なサービス業を振興することが日本にとって急務となっている。本研究では、広域集客能力のある大学・専門学校・塾・予備校などの教育産業が基盤性をもつ重要な産業であることを明らかにする。このことはサービス経済化の進め方について重要な知見がある。
(2)(地方都市に基盤産業育成問題)また、地方衰退が問題となっているなかで、製造業のグローバル化による空洞化が避けられないなかで、地方都市でも、その代替となる高度な基盤産業が成立しうることを示すことが重要であるが、岡山市が、そのような基盤性の高い、高次の教育産業をもち、それが基盤性が高いことも確認する。このことは地方創生を進める上で重要な知見がある。
(3)(産業連関分析+基盤性分析)最後に分析方法論的に、単なる基盤性ではなく、産業連関分析を組み合わせた基盤性分析を行い、特に高次のサービス業・教育産業である大学・専門学校・塾・予備校などの経済効果を評価した。
(4)以上より、域外から所得を得る分野として高等教育機関、私立学校、予備校、通信教育、eラーニング、教材産業の具体的分析を行った。教育部門の立地状況を従業員数の特化度を集中係数として検討を行い大都市、県庁所在地への集積度の高さを確認するとともに付加価値額の特化係数から政令市の基盤性を「学校教育」「教育,学習支援業」に区分し整理したところ、京都市が学校教育、岡山市が学校教育、その他の学習支援業に高い特化度を有することが明らかとなった。更に政令市の産業連関表の「教育・研究」部門の域際収支からみると、京都市、岡山市、北九州市、札幌市の基盤性の高さが窺えた。教育産業の優位性、立地特性から東京、大阪という都心を除いた政令市についてⅠ教育都市型、Ⅱ教育産業型、Ⅲ広域中心都市型、Ⅳ地方中核都市型、Ⅴ大都市圏内都市型に類型化した。
 教育産業型として教育産業において高い基盤性が認められる岡山市について、市内の他産業との比較の中で教育産業が占める位置、「教育」部門での経済循環の状況を概観し、岡山市の学校教育では、幼稚園、小学校、中学校を除き市外を対象とする公立・私立高校中高一貫校、大学・短大、専門学校について、市外から学生・生徒を集めており、基盤性を有することを確認した。特に大学については、進学者の流入・流出状況から岡山県は大阪府、東京都、京都府、福岡県等大都市圏に流出させているが、中でも関西へ流出が多いことに特徴がある。一方、流入面では、中国四国地方における中心的な役割を果たしており、さらに広く西日本に及んでいることが認められた。
(5)学校教育の事例として、大学をとりあげ、中学、高校、短大、大学・大学院の財務状況の分析、学生・教職員の居住状況といった動態や学生の通学、教職員の就業関係から私立の中学、高校、短大、大学・大学院が域外から稼ぐ基盤性を有していること、教職員の域内での消費活動が経済波及効果を及ぼすことについて考察した。
 高等教育の一翼を担う専門学校については、同じく財務状況、学生・教職員の居住状況といった動態や学生の通学、教職員の就業関係から専門学校が域外から稼ぐ基盤性を有し、域内への消費活動による経済波及効果について考察した。
 岡山市内の8大学・3短大が市外を含め獲得した事業収入をその教育・研究活動、教職員及び学生の消費活動により市内にどのような経済波及効果を及ぼしているのか、域外への漏出と合わせ、産業連関表により分析を行った。直接効果に対し1.48倍の波及効果、1836人の雇用効果、8億3464万円の税収効果が算定される一方で支出額の35.5%が市外に漏出することがわかった。
(6)民間教育支援業について、域外から顧客を獲得する学習塾・予備校、通信教育、教材製作の分野について市外から顧客を集め、または市外にサービス提供するなど、基盤性を有することを確認し、学習塾の事例を取り上げ、岡山市において規模の大きい集団指導による受験指導を重点的に行い、事業活動の中で域外から顧客を獲得し基盤性を有していることを確認した。そのためには高度の受験ノウハウの蓄積、優れた講師の獲得が必要であり、また、そのノウハウ、人材の交流において岡山においては大阪とのつながりの強さが効果を及ぼしていることが認められた。
 学習塾の活動による域内への経済波及効果について、ある例で生徒・その父兄から獲得した収入を塾の事業活動、従業員の消費活動を通じ、市内にどのように経済波及効果を及ぼしているか、域外への漏出と合わせ、産業連関表により分析を行った。その結果、直接効果に対し1.50倍の波及効果、44人の雇用効果、260万円の税収効果が算定される一方で支出額の28.1%が市外に漏出することがわかった。
(7)こうした分析から、岡山市の教育産業が基盤性を有し、域外への漏出はあるものの、他産業に比べ高い域内循環をもたらしており、全国的にも教育産業に特化する都市のモデルあることを明らかにした。
 サービス産業としての教育産業は、高校、大学、専門学校等教育機関、規模の大きい学習塾・予備校、通信教育、e?ラーニング、教材製作について基盤産業と位置づけることができること、岡山市の教育産業は、基盤性を有し、漏出する部分はあるが地域内に所得循環をさせるとともに、地域的には中四国、西日本から学生を集める教育都市としての機能を有し、大都市圏外の地方の政令市として特異な位置にあることが明らかとなった。
 岡山市の教育産業の広島市も含めた中四国エリアにおける優位性は、教育産業でもっとも重要な専門知識を持ち、教授する教員・講師といった優秀な人的資源を大阪、また関西一円から獲得に有利であること、企業の成長プロセスとネットワークで結び付きが強いこと、岡山が高速ネットワークで関西と時間距離が近く、中国四国エリアの交通拠点として人の移動に有利であることによることを明らかとした。

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