自治体の窓口手続における効率化・電子化と個別配慮について

要旨

地方自治体の業務のうちでも特に市民生活に直接関わる面の多い窓口での手続きに関するものは、業務効率化の流れの中で民間委託化や総合窓口化などの取り組みが行われてきた。そして、社会全体の情報化・電子化推進の流れの中、地方自治体の業務にもデジタル技術や情報通信を活用した効率化が求められている。窓口における手続方法の変化は、利用者である住民の利便性の向上にもつながる一方、心身の状態や生活環境等の要因により、従来と異なる方法では手続きの完了が難しくなる人も存在する。地方自治体の窓口での手続きは法制度上必須のものや住民にとって重要な行政サービスにかかるものが多く、手続き方法の変化により利用できない人が発生する状況は公平性の観点から回避されなくてはならない。また、標準的な手続方法に難しさを感じる人への対応を講じておくことは、あらゆる人々にとっての障壁解消につながり、社会全体を円滑に機能させ、生産性や持続性を向上させることにもつながると考えられる。本論文では、地方自治体で取り扱う市民生活に直接関わる窓口手続きの変化と現状を見ながら、様々な心身の事情により配慮を必要とする人々へのアプローチを整理する。特に、将来的な人口減少を見据えて推進される自治体業務の電子化による効率化をどのように浸透させていくかについて検討する。
まず、論文全体で言及する「配慮すべき層」について、配慮すべき事由の性質による分類を行い、現在定義されている合理的配慮とその対象や対応を拡大した合理的配慮という考え方について地方自治体での取り組みと関連づけ、地方自治体の手続見直し過程における議論についてもまとめる。そして、行政効率化と例外対応の具体例を確認し、「配慮すべき層」の各分類と手続き手法ごとに生じうる課題について整理した上で、それらの解消のために実行する例外対応にかかるコストを考察する。また、行政効率化の中でも特に近年注目されるDX化について自治体における効果を整理する。これらを踏まえ電子化推進がもたらすメリットとデメリット、その両面性について電子政府先進国の事例から得られることを含めて論じる。日本の地方自治体が人口減少期において取り組まざるを得ない電子化を取り入れた業務効率化の中で、窓口業務をどのように変化させていくか、今後取り組んでいく際に検討すべき方向性を示し、従来手法からの移行期に実施すべき自治体職員と住民双方のスキル的啓発について述べる。

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