旧来型の農業公園からファームパークへの変化-マーケティングの観点から-

要旨

今、日本全国で、農(第1次産業)・自然をテーマにしたファームパークが注目されている。農業政策の立場からも、もともと農業の啓蒙学習的な農業公園だったものが、より消費者に近い工夫をこらされたものになってきており、農・食・健康志向(コロナ禍)の追い風もあり、さらに、今後6次産業化・農改革の有望な拠点になる可能性がある。また、観光政策の立場からも、いわゆるニューツーリズム革命により、アグリツーリズム、グリーンツーリズムが盛んになっており、新しい概念のファームパークは大変有望であるので、分析した。先行研究では、特に観光農園との比較、成功要因および施設についての研究もあるが、農業公園・ファームパークも半世紀に近い歴史があり、この間に農業公園・ファームパーク自身も大きく変化している。本研究ではその変化を分析する。また、マーケティング論的な解釈がないことから、マーケティング論から農業公園・ファームパークの変化をみる。
【1】分類論からは、集客施設であるので、立地的には3大都市圏が有利な施設である。1980年・1990年がブームである。
【2】事例としては、もっとも古い1984年設立の「神戸市立農業公園(神戸ワイン城)」、1986年の市岡ファームから始まった農業公園のテーマパーク化という手法をいれ農業公園概念を活性化させた(株)ファームの手になる「イングランドの丘」「ブルーメの丘」、そしてそれらの進化、さらに新しく道の駅として活性化している「フルーツ・フラワーパーク」を分析した。
【3】発展段階論としては3世代ある。(1)(第1世代、初期の農業公園)初期の農業公園は、農業教育、学習、鑑賞施設としての性格が強い。例として初代の神戸農業公園。(2)(第2世代、(株)ファームによる改革、ファームパーク概念の登場)ところが、愛媛県で、農業公園に観光の要素を持ち込んだ風雲児である久門渡が農業公園概念に革命をもたらす。(株)ファームを中心に、地域と第1次産業の活性化のために、農業公園に観光要素をとりいれた第1.5次産業施設の第1号として1986年に、西条市に「高原牧場市倉ファーム」を開設し、成功する。ここに事実上、農にテーマパークの要素が入った。それが有名になって1990年代以降、地方振興策になやむ多数の自治体がファームとタイアップし、農業公園のリニューアルや新しいタイプの農業公園(ファームパーク)をつくるようになる。これが第2期でファームパーク概念が登場する。(3)(第3世代、マーケティング上の改革)(株)ファーム自身は、その後拡大経営がたたり創業者の退任となるが、各ファームパークではさらに、2010年代前後からより消費者志向型のマーケティング上の改革が進み、ターゲットの拡大(子供(孫)・シニア含むファミリー向け)、参加型、ふれあいコンテンツの拡大などがおこなわれていく。
【4】「株式会社ファームの第1次改革=株式会社ファームの革命」ファームパークの経営上の利点は、(1)農をテーマにしたテーマパークは、自然の景観を活かし、投資は少なく抑えられる(綜合ユニコム他)。(2)特に(株)ファームの場合、各地の自治体からの農業公園再建をまかされ「公設民営」でますますリスク回避できた。(3)参加型・体験型は、リピーターになりやすい。(4)自然をテーマにすれば、基本的に金がかからない。(5)特に遊具は作れば手間いらずなので、粗利が非常に高い。(6)入場料は安く設定できる。
【5】「第2次改革=集客分析による2010年代に新しい消費者志向のマーケティング改革により回復する時期」の変化を分析した。(1)各事例は2010年代に訪れた危機に対応しマーケティング上の改革をしている。ここでは、すでにUSJのV字回復モデルで述べたような、2010年代にテーマパーク一般で課題となった、ターゲット拡大、癒やし志向、時間消費などの構造変化により、マーケティング上の改革をおこなっていることを検討した。(2)コンテンツ要素論として、第1次産業の鑑賞と参加として(A)花、農業の参加(B)市民農園(収穫体験含む)、畜産業の鑑賞・参加として(C)動物ふれあい、(D)食品加工・工房、地産地消の食として(E)レストラン、(F)食品・直売場・物販、その他として(G)遊具、(H)クラフト工房の8つのコンテンツに集約される。(3)4P分析をおこなった。1)Product(製品・サービス)遊具や参加型を増やすことで有利になる。2)Price(価格)他のテーマパークと比べ、低価格となっている。初期投資は公設民営で低くおさえる。30億円の投資なら30万人の入り込み客数、50億円の投資なら50万人の入り込み客数、3)Place(販売場所・提供方法)集客施設なので大都市圏が有力である。ファームの法則「大都市から日帰り時間距離(2時間)か、入り込み客数数十万人の既存観光地の近くにあるかの条件」など農のテーマパークのセオリーを作った。4)Promotion(販売活動)自然・動物・花・食材の広報・広告である。
(4)2010年代の第3世代農業公園への変化まとめ。1)施設内構成要素の傾向。①資料館・博物館・展示施設は、1997年代から減少傾向にある。②ほとんどの農業公園・ファームパークが花を観賞することができるようになっており、レストランを有している。③収穫体験及び市民農園、実際に食べ物を自身の手で作る体験は、1993年ごろから増加している。収穫体験及び市民農園に関しては、2000年代に建てられたものはすべて有している。④クラフト・陶芸体験は、1990年代から増加傾向にあり、2000年代に減少傾向となっている。⑤外国文化のアピールは強調されなくなっている。2)ターゲット論からみた変化。①客層の変化「学習・学習者=>女性、子供、シニアを含むファミリー」。②農業と市民の関係「農民と市民は傍観者=>市民が参加、農業者に」。麻尾均(2000)は、食品作り、クラフト作り、牧場などのふれあい系、農業収穫系などに分類し、女性や子供マーケットに有効で、滞在時間を延ばす働きがあるとする。
【6】ビジネスモデル的にも分析をおこなった。
【7】今、ファームパークを分析する意義は、(1)農の改革に適合する。(2)観光トレンド(農・地産地消の安全な食)に適合する。(3)(一般のテーマパークと異なり優れた点1)自然地形活用なので、そもそも初期投資を低く抑えられる。(4)(一般のテーマパークと異なり優れた点2)元々「社会教育施設」「農業振興・教育施設」という概念であるので、公的支援がある。①1990年代に地方衰退に悩む地方自治体にうけいれられ、各地で自治体とタイアップした。②そのため、土地の用意やインフラ整備など公的支援がある。いわゆる公設民営型が多い。③昔は3セク、最近は指定管理。
【8】経営的視点:イングランドの丘は成功していて、コアラ特別経費を行政が出している以外は、年間40万人きて(平均単価2200円)売り上げ8億、コスト7億で、黒字1億できている。
【9】今後の展開・可能性(1)ニューノーマル/アフターコロナ時代に対応した、「密」のないテーマパークである点。(2)「健康」(3)農業活性化の「6次産業」の拠点になる可能性。1)(販路・ブランド化拠点)個々の農家が「6次産業」を個別にすることは難しいが、ファームパークでブランド化・販路確保できる。2)(実際にやる人の学習拠点)新規就農者の「学習拠点(単なる市民の傍観的学習でなく、本当に農を目指す人)」にする。

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