大学の第3の機能としての地域貢献-ニューノーマル時代における持続可能な教育・研究モデルとしての考察-

要旨

近年、教育、研究につづく、大学の第3の機能としての地域貢献に注目があつまっている。一方、コロナ禍のため、ニューノーマル型の生活様式となり、大学等の教育全般にわたり大きな影響が生じている。本研究では、このようなニューノーマルの生活様式化で、大学の地域貢献はどのような状況にあり、またどのようにすれば成功し、どのような意味をもっているのかを検討した。その結果、困難な条件のもとで、教員、学生、地元、行政、企業が知恵をしぼって継続している地域貢献プロジェクトには、共通して重要な特徴がみられるので、それらを検討した。(1)まず、先行研究を概観し、大学の地域貢献は、教育・研究とつながるようにする必要があり、それにより大学と地域双方のメリットが拡大することを確認した。さらに、大学は地域との連携を通じて多くのことを学ぶことにより、それらのことが教育・研究活動に好循環を生み出すという関係性があることがわかった。(2)2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大による社会的影響について、国などの施策をまとめた上で、コロナ禍後の社会変化の予想について、整理を行った結果、コロナ禍への対応は三密を避けることであり、コロナ禍に対して、1)教育分野ではリモート、2)都市政策・産業分野ではオープンエアをキー概念として対応することが考えられていることを示した。(3)コロナ禍における大学の地域貢献について、現状から分類をおこなった。滋賀県の「大学地域連携課題解決支援事業」対象事業およびその他の地域連携事業の代表的な事例について、2019年度(コロナ禍前)と2020年度(コロナ禍中)の活動状況を比較した結果、活動は、「農系」、「都心系」、「健康系」、「イベント系」、「ボランティア系」、「スポーツ系」に分類でき、持続可能な活動は、「農系」、「都心系」、「健康系」であった。(4)都心系については文部科学省「私立大学等改革総合支援事業」のデータで補い、ニューノーマルの中で継続し、成功している典型的な事例として、高島市、大津市、金沢市、福岡市、草津市をとりあげ分析をおこなった。(5)コロナ禍でも継続し、成功している地域貢献活動は、コロナ禍に強い特質を共通でもっている可能性が高い。それらについて検討し以下のようなモデルを得た。(6)「オープンエア・リモートモデル」教育分野や都市政策分野では、ニューノーマルへの対応の鍵は、オープンエアやリモートの活用であるということが指摘されている。休日の非日常体験の場である郊外では、自然豊かなオープンエア空間を活かした、大学と地域の連携による活動に参加することで、心身の「癒し」を得ること、人々が自宅にいながらにして、リモートで大学の教員・学生による健康づくり指導を受けることで、運動不足を解消して健康維持を図ることが可能となること、日常生活の中で商店街に行った際、非接触による対面とリモートにより学生や地域の人々と交流ができれば、コミュニティとのつながりを得ることができることを明らかにして、「オープンエア・リモートモデル」を構築した。(7)「クリエイティブ活動・スキルモデル」コロナ禍でも継続し、成功している地域貢献活動では、学生のどのような能力を育てているのかを検討した。コロナ禍でも継続し、成功している地域貢献活動では、学生のクリエイティブ活動を共通で育てていることが判明し、クリエイティブ産業論、クリエイティブ経済学に関する国連等の研究成果から考察した。1)農系で持続可能な活動は「文化・自然遺産」「音響映像・インタラクティブメディア」「デザインその他のクリエイティブサービス」「観光」2)都心系で持続可能な活動は、「パフォーマンスや祭典」「視覚芸術と美術工芸品」「音響映像・インタラクティブメディア」「デザインその他のクリエイティブサービス」3)健康系で持続可能な活動は、「書籍・出版」「音響映像・インタラクティブメディア」「デザインその他のクリエイティブサービス」「スポーツと娯楽」であることがわかった。コロナ禍以降も継続している事例ですべてに含まれているのが「音響映像・インタラクティブメディア」「デザインその他のクリエイティブサービス」で、いずれも、ITのスキルやデザインの感性といった、大学生世代の得意分野であった。学生たちが、コロナ禍にともなう制限の中で工夫をしながら、ITスキルやデザインスキルを活かした活動で地域と連携していることに着目し、ニューノーマル時代の「クリエイティブ活動・スキルモデル」を、大学と地域との連携モデルの一つとして提示した。(8)「産・官・学・地連携モデル」コロナ禍でも継続し、成功している地域貢献活動は、産官学連携がみられ、しかも特徴のある連携がみられていること、日本における産官学連携はこれまで圧倒的多数が理系分野の研究室と企業、ないしは研究室と行政といったタイプであったが、これに対し近年、文系分野での産官学連携が盛んになってきたが、その中心は地域貢献にあること、そして今後の地域貢献は当然、With/Afterコロナの課題が重要であることを明らかにしそれを「産・官・学・地連携モデル」とした。(9)最後に、再び大学教育の全体からみて、コロナ禍状況下における大学の地域貢献活動の位置づけをおこなった。1)これまでの大学教育の大きな課題としての参加型教育の深化は、アクティブ・ラーニングや、PBLといった形で導入されてきた。ところが、日本では欧米に比べ、これらの導入が遅れているという指摘や、PBLの有効性を疑問視する意見もあった。しかし、コロナ禍という想定外かつ正解も前例もない事態において、大学と地域とが試行錯誤を繰り返しながら、ニューノーマル要素を取り入れて連携を推し進め、従来から存在する地域課題にコロナ禍が付加され一層複雑化した課題の解決を図る中で、従来型の教育・研究に実験的要素が入り、地域貢献以外の教育・研究の方法にも刺激をあたえ、それらを深化させる先駆け的活動となる「実験室」の役割を果たすことが期待できることを示した。(10)以上得られた結論をもとに、「3分野・3要素・3モデル」としてまとめた。

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