高齢者等の移動問題に関する自動運転新交通システムの導入による持続可能なまちづくりの可能性に関する研究

要旨

高齢者の移動手段が問題になっているなか、全国各地で自動運転サービスの実証・実装実験が行われている。地域特性、国の支援、事業主体や実証方法の異なった3事例で自動運転サービスが現状どのような運用サービスが行われているのか、実証実験はどのように展開されているかの調査を行いそれぞれの特徴を抽出した上で、現状の課題を明らかにする。その結果、高齢者の移動問題に関する自動運転新交通システムの導入による持続可能な解決のために、事例から共通の抽出可能性の研究において重要な4つの課題とその解決方向のモデルが得られた。
1.目的:高齢者を組み込んだまちづくりの持続可能性にかかせない交通問題の解決には、自動運転システムの導入が非常に有望である。ところで、自動運転化などの新しいシステムは、現在解決すべき点があるなかで、一部で、自動運転を推進すべき根拠や持続可能な手法について、有望な事例があらわれてきた。本研究は、そのような有望事例にみる重要な視点・要素に関するモデル化をおこない、今後の高齢化社会における新技術を応用した持続可能なまちづくりに関する知見をまとめることを目的とする。
2.分類と事例:全国事例の分類と、今後の持続可能性が考えられる自動運転事例の抽出。全国で行われている自動運転や自動走行サービスに関する事業114事例のデータベースを作成した。その中から、今後の持続可能性が考えられ優秀とおもわれるもので、高齢率の高い過疎地域や都市近郊型ニュータウンなどの立地特性や事業の特色、自動運転方式、公的資金や支援・補助、事業主体、事業委託、運行スタッフ、緩和制度などで分類を行った結果、異なる類型の、自動運転の実証実装実験を実施している以下を調査対象に選択する。(1)中山間地域・国支援型(誘導方式):国の支援の2番目に早い代表例として、東近江市・奥永源寺地区。(2)大都市圏・都心近く・住民発意型(非誘導方式):都心に近いが坂があり、住民からの要望で始まったもの、神戸市・筑紫が丘団地。(3)大都市圏郊外・商業者支援型:地域の大規模店とまわりの団地の連携した持続可能性のために始まったもの、河内長野市・南花台団地。
3.モデル化:上記の代表事例が現在直面している課題とそれの解決への考え方として4つのモデルにまとめた。
【モデル1:運転労力低減モデル】自動運転は技術的には向上するが、いざ事故がおこったときの責任論が存在するので、易しい郊外や地方のシニア相手から普及するとされているが、現時点で、レベル2かレベル3しか実現せず、同乗の自動運転なら、経済的には「監視員が同乗するならなぜハンドルを握らないのか」「人が減らないなら採算がとれない。」との批判あり、現在では、同乗者の位置づけが、自動運転の実用化の最大の障壁である。そこで労働経済の立場から、これからさらにドライバーのなり手が減少する問題として有利な点をモデル化する。手動運転で運転する労力に比べ明らかに楽なことが証明されればよい。そこで警察庁の規準をもとに分析すると、やはり人間が運転するより「労力は約6割」になり、なり手の敷居値が低くなり、改善されることがわかった。
【モデル2:道路問題・分離交通モデル】今後、限定地域での自動走行移動サービスにおいて、低速自動運転車両(電磁誘導式ゴルフカート型)を使用した場合、課題となるのは【国道などの横断・縦断問題】である。私道は所有者、市道は道路管理者の合意があれば通行可能だが、原則、国道なども自動運転車両の通行は可能となっているが、現実、通行できず、国道等の使用を省く別のルートを選択せざるを得ない状況である。すなわち、道路問題を回避する方法は、現在は、分離交通モデルになる。
【モデル3:見守り・スマートシティ化モデル】自動走行サービスでは、街路の常時モニタリングが不可欠になってくるが、これはシニアの見守りなどスマートシティ的方向に拡大・強化される可能性がある。今後、高齢化問題は個人や家族、行政の社会保障だけでは立ち行かなくなり、「まち」が高齢者を見守れるスマートシティ的方向のシステムが必要になる。実証実験や事業化が進む自動走行サービスは、単に移動手段としてだけでなく、高齢者や子供の見守り・地域の防犯、情報提供などの付加価値をどれだけ地域にもたらすことができるか、サービスを利用しない人たちとの親和性や社会受容性をどれだけ高められるかが、事業化に向けての必須の条件になると予想される。スマートシティ化に向けての取り組みの可能性として考えられる以下の5項目にまとめられることがわかった。(1)自動運転車両センサー:東近江市、神戸市、河内長野市(2)ドライバー及び補助員:東近江市、神戸市、河内長野市(3)街路に設置されたカメラ:神戸市(4)オンデマンドサービス:神戸市、河内長野市(5)見守りサービス:東近江市、神戸市、河内長野市。
【モデル4:地元維持モデル・今後の課題】利用料金、行政の補助金、地域の負担により、コストを賄うシステムを構築して採算問題を解決できれば、最終的には、住民主体での持続可能な運用が維持できると考える。可能性として考えられる以下の5項目にまとめられることがわかった。1)自動運転技術向上・無人化、2)料金以外の収益・見直し、3)地域住民・地域企業の協力、4)多様化・地域活性化、5)維持経費の節約・効率化。

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