after/withコロナ期における宿場町型の重伝建地区(重要伝統的建造物群保存地区)の持続可能な観光まちづくり戦略に関する研究

要旨

 本研究は、重伝建地区(重要伝統的建造物群保存地区)の内でも、宿場町型の伝建地区の一部にみられる持続可能な観光まちづくり戦略を分析し、アフターコロナ期の宿場町の歴史まちづくりモデルを提案するものである。宿場町の特殊性は、重要な宿場町は、立地特性により、1)交通利便性の大きい立地(都市部・幹線道路)と、2)交通利便性の小さい立地(周辺部)に分けられることである。前者は、幹線道路等開発が進み、取り壊されるが、後者は開発を免れる。古い建築等が残っているものは伝建地区指定をされている。本研究では、さらにそれが2分類でき、先行型宿場町まちづくり(インバウンド依存で、コロナ影響あり)と、新興型宿場町まちづくり(アフターコロナ、持続可能なツーリズムに対応)に分けられることを述べる。
(1)歴史まちづくりの中心の一つは伝建地区である。(2)その伝建地区の典型である「商家町型」「武家町型」「農山村型」「寺社町型」には研究・調査多い。これに対し。宿場町型はこれまで研究が少なかったので、本研究では焦点をあてる。宿場町は、まだ研究が十分おこなわれていない分野である。しかし、最近、特にアフターコロナ期において、まちづくりが活発化し、地域活性化の兆しがみられるところがあり、本研究では注目する。(3)そして、これまで観光まちづくりの後発だった宿場町伝建地区は、先行してメジャーな観光地となった観光まちづくり開発の先行グループと、遅れた新興グループに大別できる。1)「先行グループ」絶対数多いメジャーな観光地、コロナ期に急減(妻籠宿、奈良井宿、大内宿)。2)「新興グループ」もともと観光客は少ない。ところがコロナ期にほとんど減少せず勃興してきた(関宿、熊川宿、矢掛宿)。(4)研究数による分類:筆者が注目している矢掛宿、熊川宿、関宿は、コロナ禍による観光客の減少割合が少なく、さらに研究数も少なく、注目に値すると考えられる。以下3事例をあつかう。岡山県矢掛町の事例1(矢掛宿)、三重県亀山市の事例2(関宿)、福井県若狭町の事例3(熊川宿)。
分析の結果、今回研究した成功している「新興グループ」のいずれの宿場町でも、これまでの観光地と異なり、以下の新しい特徴がある。
【モデル1:インバウンド依存度モデル】インバウンド依存度が少ないので、落ち込みが少なく、勃興してきた。
【モデル2:withコロナ期の飲食物販の地元型新規出店モデル】コロナ期にもかかわらず飲食物販の新規店舗数が急増。しかも殆どが地元出身の事業者によるもの。
【モデル3:リノベーションによる地元化分散型宿泊施設モデル】すぐに転用できるリノベーション型分散型ホテルの増加がある。(1)飲食と異なり事業規模が大きくなるので、地元型ではないが、地元化モデル。(2)独立棟貸しはウィズコロナ時代には好まれる。
【モデル4:オープンエア型周辺観光施設との連携戦略モデル】周辺のキャンプ場などの観光施設における観光客が増加傾向にあるばかりか、中心の宿場町がそれとの連携回遊戦略をとっているところに特徴があることがわかった。これは、アフター/ウィズコロナ期において適切な「オープンエアモデル」の典型になっている。
【モデル5:来訪者分析とマイクロツーリズム・内発的発展モデル】観光客の居住地は県内や近隣府県が多くを占めていることがわかった。(1)マイクロツーリズムの典型例になっている。(2)内発的発展論および新内発的発展論の典型例となっている。1)来訪者、すなわち消費者は地元・近間中心であり、2)商業・飲食事業者も、地元主体であり、3)宿泊業者は外部出身者が多いが、地元化が顕著である。すなわち、1)消費者、2)商業者の面から典型的な内発的発展のモデルに一致し、3)宿泊業者の立場から、新内発的発展論の典型的な例になっている。
【モデル6:地元配慮型ニューツーリズムモデル】大型バスが沢山乗り入れる駐車場が少なく、少人数のそぞろ歩きなので、環境負荷は小さくなり、地元配慮型ニューツーリズムモデルといえる。
すなわち、アフター/ウィズコロナ期において、これまで伝建地区の観光振興例で多くはなかった「宿場町」の中でも、さらに後発の「新興型宿場町」が最近活性化しつつあることがわかり、それは、今後望まれる、エコ・持続可能・地元型ニューツーリズム、マイクロツーリズム、内発的発展論の理想的モデルになる可能性があることがわかった。
【要因モデル:定量分析】宿場町が観光客を集めるためには何が集客に影響を及ぼしているのかを分析し、宿場町活性化のための基礎的な要因を定量分析した。観光客実数については、大都市圏からの距離や人口との関係をもとにした指標、イベント回数、資料館の施設数とは明確な関係性は見いだせなかった。一方、駐車場台数、飲食施設数、物販施設数との関係性は高いことが分かった。重回帰式は以下のとおりである。
Y=1.96+0.04X1+0.32X2+1.29X3(R2=0.68)
Y:観光客数。X1:駐車場台数(普通車) X2:飲食施設数 X3:物販施設数
この結果、平均的に以下のような傾向があることが分かった。
1)駐車場台数が1台増加すると観光客が約400人増加する。
2)飲食施設数が1件増加すると、観光客が約3200人増加する。
3)物販施設数が1件増加すると、観光客が約1万3000人増加する。

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