転換期にある観光地域づくり法人(DMO)の持続可能戦略 -商品造成・コンサルティング・IT広報マネジメントのモデル化-

要旨

観光地域づくり法人(DMO)は旧来型の観光協会や行政の部局の政策を超えて地域の観光の総合的なプロデューサーとして期待され、多くのものが設立されたが、今後は、淘汰評価の時代を迎え、重点DMOなど、優良なものになることが期待されている。
DMOについては研究があらわれだしているが、優良なものの例を深く調査してその事業のメカニズムを解明したものは少ない。そこで、本研究では、そのようなものの例として、重要な、事例研究1(奈良県ビジターズビューロー)、事例研究2(相差海女文化運営協議会)、事例研究3(金沢市観光協会)を詳細に分析した。DMOの追求すべき成果、観光行政とDMOの役割分担の明確化での運営体制の確立、観光による域内資金循環の仕組み、財源の特徴からDMOの分類、DMO運営に安定的な自主財源確保が重要とまでは研究されているが、重要とされている自主財源にすぐれたアクティブ「持続可能なDMO」が具体的にはどのようにすれば可能になるのか?その具体的なマネジメントと政策のやり方についての知見はまだ少ない。そこで本研究では、そのような具体的な自主財源モデルを導き出すことを試みた。
(分類論)各種指標をもとに、北海道から沖縄までの全国の代表的DMOを、分類し、自主財源が多い多様な活動を行うDMOとして、抽出した。1)中部、近畿地方において、2)上記分析による自主財源比率が良好であり、3)かつアクティブな活動を行っているとの定評があるDMOを、それぞれ、立地条件に従って、都市圏型、農産漁村型、地方観光都市型から1例ずつ選び、以下事例研究をおこなった。事例1(都市圏型)奈良市・一般社団法人奈良県ビジターズビューロー(財源比率66%)事例2(農産漁村型)鳥羽市・一般社団法人相差海女文化運営協議会(財源比率95%)事例3(地方観光都市型)金沢市・一般社団法人金沢市観光協会(財源比率81%)
(財務分析)特にPL(収益計算書)に注目し、自主財源の強力なアクティブなDMOにおいては、「商品開発」「コンサルティング」「IT広報」の項目が強いということがわかった。そこでこれらをモデル化した。
「モデル1:総合産業化(商工会議所型DMO論)モデル」自主財源比率が高く、アクティブなDMOでは、共通して、商品企画開発(自主事業型・委託型)が上手く、強力に、そして大きく展開している。これらの優秀なDMOには以下の2つの大きな特徴があることがわかる。(1)商工会議所由来 共通する歴史的要因:1)奈良県ビジターズビューローの場合、その由来の半分は、MICEという観光協会とは別の発想でつくった、奈良市と奈良商工会議所が作った財団法人奈良県コンベンションビューローにある。2)相差海女文化運営協議会の場合、当時の商工会議所副会頭の吉田氏がキーパーソンとなり、エコミュージアムの発想で、国の地域資源調査事業を行い、商工会議所の主導で作った。海女文化に特化し、観光協会と会議所と旅館組合の役割をはっきりして進める。3)金沢市観光協会の場合、そもそも非常に古く1949年の設立から金沢商工会議所の中にでき、それからずっと商工会議所主導でやってきたが、1994年に商工会議所の中にあった観光協会を、金沢駅の高架下で、独立の施設にし、その後、市と商工会議所の共同で運営している。伝統ある観光都市だが、伝統工芸が観光資源なので最初から商工会議所指導だったのである。(2)総合産業化への志向:観光協会を構成してきた旧来からのいわゆる「観光業界」の事業者(宿泊等)だけでなく、広く農・飲食、伝統工芸、ものづくり製造業、IT、サービスなどの広く一般の産業も観光関連産業とみなし、総合連携で取り組む姿勢が強力であること。この2つは相互に連携していた。
「モデル2:コンサルティング・人材スキル・富裕層ビジネスモデル」自主財源比率が高く、アクティブなDMOでは、利益の高い、コンサルティング(委託事業、マーケティング)や富裕層マーケティングを大きく展開している。すなわち、強みがみられることがわかった。コンサルティングは、利益率高い。1)コンサルティング。2)商談会・ファムトリップ技術。3)富裕層マーケティング・スーパーガイド。これらのマネジメントには、(内部的人材育成)コンサルティングができる専門人材育成と(外部的連携戦略)優秀なスキルをもった主体を見抜き、連携する能力、のいずれかで実現させる。
「モデル3:IT・体験型モデル(旅前で誘客するためのネットシステム構築)自主財源比率が高く、アクティブなDMOでは、IT広報(参加型)(旅前で誘客するためのネットシステム構築)に強みがみられることがわかった。ITは省力化、DXにも役立つ。なぜ有利なのか、そのメカニズムとして、1)IT(Web、SNS等)の活用は、体験型の観光資源のマネジメントと意外に相性がよいこと、2)観光業界の最大の課題となっている人件費削減とDX・省力化の2つの非常に重要な事実を明らかにした。
「モデル4:広域連携とルート開拓モデル」では、広域連携と新回遊ルート、新観光圏の構想をモデル化した。奈良と金沢は、それぞれ、紀伊半島関係自治体や北中部(岐阜・長野)と広域連携をしている。これらは、これまでの東京=京都の第1ゴールデンルートから人を引き出し、観光圏を広げる、新たな回遊ルートを模索する広域連携戦略と考えられる。

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