陶芸産地の中間組織振興による地域産業活性化の研究

要旨

【研究のねらい】アジアからの低価格の大量生産品の輸入に対し、日本の陶芸産地の課題は、ブランド化と高付加価値化である。ところが、近年、志願する若者が減っており、また産業としても産地は衰退している。代表的産地にはいくつかの先行研究があるが、みな制度論や産業史の視点である。このように産業研究はあるが、依然、産地は衰退し、若者も減っている。そこで本研究では、世界的にみたクリエイティブ産業の構造から考える別のアプローチをとる。クリエイティビティを発揮でき、しかも生活が経済的に成立する中間的な就業形態を増やす必要がある。若者を増やすためには、1)高度なデザインのブランドを確立し、これまでは作家性がなかった分野で、作家に近い職、作家に近い仕事の割合を拡大すること。2)ベンチャー形態で、経済的に自立する機会を増やすこと。3)経済的に自立するためには、ヨーロッパ(北欧、南欧)社会と同じように、これまでの古い枠組みの支援ではなく、デザインベンチャー、デザインハウスを育てる可能性が表れており、これも分析を行った。
「分類論」:筆者独自の全国の産地のデータベースから、産地の5つの特徴「伝統工芸認定」「六古窯」「試験場」「人材育成研修所」「陶芸美術館」を分析し、本研究では、人材育成が主眼であるので、上記の分類論から、試験場、人材育成研修所、陶芸美術館等をすべて兼ね備えた条件をもつ、人材育成に力を入れている産地、具体的には、信楽産地と美濃産地およびヨーロッパの事例を対象とすることを示し、これについて分析をおこなった。
「(歴史モデル)5発展段階論と地域産業構造」:(1)産地は、5発展段階モデルと商品の5ジャンルモデルで把握できること。(2)信楽産地の分業構造-個人・製品のブランド化状況を検討した。1)血縁と新人の違い。2)マーケティングの主体の違い=>問屋か組合か個人か。3)マーケティング情報の流れの違い。4)大量生産品と観光品(芸術品)の違いを分析した。(3)地域発展の新しいモデル。産地全体の構造における個人と産地の関係としては、これまでは両極分解した関係だった。1)作家性の強い産地は注目できるが量的には限界がある。2)逆にアート性の乏しい量産産地は、これからのグローバル競争の中で生き残っていくことができない。作家、観光用品、デザイン、量産品の多様な機能をもち、それらが有機的に関係して助け合う産地こそ、持続可能な産地といえる。3)しかし、両極のままでは、クリエイティブでなく最終的には国際競争に有利でない。やはり個人も地域も最終的には両立し、Win-Winとなるような方向、すなわちクリエイティブ産業社会を最終的には目指す必要がある。
「事例分析」「信楽産地と美濃産地」の詳細は省略。「ヨーロッパモデル(フィンランド等)」(1)北欧では大学研究機関・教育研修機関や国家が応援し、企業の安定性の中で、国や企業が個人ブランドを推進した。(2)またイタリアでは、中間的組織、コーディネーターの役割が重要であった。イタリアの産業集積は、細分化された分業構造に特徴がある。
「アートベンチャー/デザインハウス/中間的組織モデル」以上をふまえ、固定化した、個人、製陶所、企業の活動をつなぎ、「よりクリエイティブな部分をあつかう、中間組織・ベンチャー・デザインハウス」の出現に注目し、以上から産地の現在と現在の新しい動きをモデル化した。個人作家と製陶所、従来の陶磁器メーカーの中間の組織が大事である。1)現状は、個人、製陶所、企業の活動が分断しており、かつこれから重要となるアート性、デザイン性のある部分は個人活動に集中している。その間は分断がある。2)ここで、「よりクリエイティブな部分をあつかう、中間組織・ベンチャー・デザインハウス」が沢山でてくる。3)これらが触媒となって「窯元(個人)」のブランド化を進める。4)次に「企業部門の中のデザイン部門」「窯元(製陶所)のデザイン部門」も拡充する。5)このように、「よりクリエイティブな部分をあつかう、中間組織・ベンチャー・デザインハウス」の効果により、「クリエーター個人名でのブランド化」「世界へのブランド化」が進むと考えられる。
以上、中間組織の拡大・ブランド化が大切であることがわかった。これにより本研究の2事例、美濃焼産地と信楽産地について産地が、デザイン・アート・クリエイターの自己実現により、地域活性化を実現するモデル図を作った。

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