「好きなモノ」に対するラフ集合の応用 −ファッション専門学校の学生が捉えた感性価値−

要旨

本研究は,専門学校の学生が「好きなコトを活かせる仕事に就くこと」を目的とする。 学生の「好きなモノ」を探求することにより,学生自身が気づいていない潜在的な「感性」や「価値」を引き出そう とする試みである。ここで言う「感性」とは刺激に対する脳の反応であり「,価値」とは作り手が生み出すものではなく, 受け手が感じとるものである。 現在,繊維・ファッション産業は,価格競争だけではない価値の高さが求められている。近年,ファーストリテイリ ング(ユニクロ)のように最新流行を採り入れ,廉価でありながら ICT 活用を背景に短サイクルで生産・販売する「製造・ 販売一体型 (SPA)」の企業があり,価格を抑えた輸入品により海外からの圧力が高まっている。一方の対極では,ルイ ヴィトンやディオールといった高級ブランドを傘下に持つ LVMH が,「5 つの価値(クリエイティブで革新的であるこ と,常に最高を目指すこと,卓越性を追求すること,ブランドイメージを高めること,起業家精神をもつこと)」を掲げ, ブランドの「価値」を高める顧客中心の戦略で生活者の「感性」を刺激している。しかし,国内のモノ造り中心で進め てきた繊維・ファッション産業全体では,製品出荷額がピーク時(1991)の 1/3 以下になり,国内産業も空洞化して いる。そのため,雇用も減少し学生の就職活動は厳しい状況にある。 本研究では,モノの「価値」を高める顧客中心の視点で,学生の「感性」を刺激している「好きなモノ」を集め,学 生自身の手で「感性・価値情報」を顕在化していく。第1章では,学びの背景となる,日本の繊維・ファッション産業 の現状と企業が直面するマーケティング動向と ICT について概観し,本研究の方法と目標を設定する。第2章では,学 生が授業中に行っていた「好きなモノ」探しの行為から,アイディンティティ形成いたるまでの経緯を述べる。第3章 では,「感性」や「価値」を起点とした,アイデンティティ型リコメンドシステムやマーケティングに関する先行研究, 先行事例を調査する。第4章では,「好きなモノ」から抽出した「感性」や「価値」をネットワーク図として可視化す る手順を提示した。また,手順にそって「感性」や「価値」の調査を行う。第5章では,前章の調査結果をから「感性」 や「価値」の情報を分析し可視化する。第6章では,前章の分析結果から得られた「感性・価値情報」の知見を元に考 察を行う。最初の調査分析による「感性・価値情報」の可視化が,学生自身のアイデンティティ形成に有効であること が明らかになった。次の一般化手法では,可視化で得られた知見を元に「好きなモノに囲まれて暮らす」を実現するた めのリコメンドシステムを提案する。さらに,一般化により得られる「感性・価値情報」の知見が,消費者像の明確な 定義と把握を実現すると考えられるため,企画・生産・販売の現場での「デザイン・価格・品質・素材」の検討に役立ち, 需要と供給の均衡を保つバランサーとして効果的に機能すると考えられる
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